■おかしなノリの話

□世界平和への一撃 2
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「火神っちがぼーっとしてるから負けたっス」
「お前が簡単にパスを出させるからだろ」
それぞれアイスとジュースの袋を提げて、火神と黄瀬はコートの近くまで戻ってきた。道中は常に相手への不満が垂れ流され、そこには即席のチームワークすら存在しなかった。
「でも次は絶対負けねぇ…あれ?」
コートへと目を遣った火神は、予想外の光景に足を止めた。
「なんか黒子…絡まれてねぇ?」
「何いぃ!?」
光の速さで黄瀬が同じ方を見る。そこにいたはずの青峰と緑間の姿はなく、代わりに黒子を囲むのは態度のよろしくない4人の男たちだった。もちろん、和やかな空気が流れているわけもない。
男の一人に腕を掴まれ、黒子が顔をしかめる。助けなければ。すぐに駆け出した火神よりも早く、響き渡る声が男と黒子の間を割った。
「神聖なるコートでの悪行三昧、しっかり見させてもらったぜ!」
「その汚い手を離すのだよ」
助けに入った二人は青峰と緑間のようで、青峰と緑間ではなかった。青と緑のフルフェイスメットに、火神は嫌な汗を流す。
「な、なんなんだお前らは…!」
「仕方ねぇ。教えてやるよ」
青メットの男は、全然仕方なくない様子でビシッと腰に手を当てた。
「俺は―――エロと性欲のムラムラブルー!」
「最低だなオイ!」
「おはと朝のラッキーグリーン!」
「おは朝って言えぇー!!」
「愛と勇気のシャライエロー!」
「え?黄……ええぇー!!?」
二度見どころか三度見するも、隣にいたはずの黄瀬の姿はそこにはなく、瞬間移動並の速度でカラーメット集団の中にイエローが増えた。
更に驚きは続く。ごそごそと準備をする間を挟んで、集団の中からぴょこんと4人目が姿を現した。
「キレとコクの微糖ブラック!」
「なんでちょっと砂糖増えてんだよ!」
「ちなみに突っ込んでもらえなかったけど、俺もチャライエローからシャライエローに進化したっス」
「どーでもいいわ!」
怒涛の突っ込みに息を切らせる火神に、ブルーは一言ならぬ一文字を返した。
「で?」
「で…?」
「お前は突っ込むだけなのかよ」
「ああ、だめだめ。彼はそういうんじゃないんスよ」
「あちら、キャッチコピーをお持ちでないそうなので」
「キャッチコピーがない…?」
イエローとブラックがぱたぱたと手を振れば、グリーンはメット越しに蔑みの目を向けてきた。
「一体どんな人生を歩んだら、キャッチコピーがないなんてことになるのだよ」
「むしろキャッチコピーがあるお前らがどうなってんだよ!」
「ったく、拍子抜けだぜ」
つまらなそうに曲げた首に手を当てて、ブルーは火神に歩み寄る。すれ違い様に、彼は告げた。
「お前のキャラは、淡すぎる」
「…っ!」
火神は目を見開き、その場に膝を着いた。なんだこれ。立ち直れない。
再起不能な火神を飛び越えて男たちの前に並んだカラフルな4人組は、ぱしんと手のひらに拳を当てた。
「じゃあ、掃除をはじめようか」
そう言うイエローはにこやかで、爽やかなくらいだったが、それが逆に恐怖を煽った。
「結局お前らはなんなんだ…!」
「ああ?見りゃ分かんだろ?」
「バスケの妖精なのだよ」
「絶対違えぇー!!」
叫ぶ男たちの声は間もなく、断末魔のそれに変わることになった。


「やっぱり外でやるバスケは気持ち良いな」
ほとんどバスケやってないだろ。
「そんなストリートコートを守るのは、当然の義務なのだよ」
冒頭に反対していたアレはなんだったんだ。
「俺たちが揃えば関東のストリートコートの平和は守られたも同然っスね」
だからその微妙な範囲制限はなんなんだ。
「東北にはパープルが、関西には真のレッドがいますしね」
真のってなんだ。偽りのレッドがいるみたいな言い方はやめてくれ。
「本当にお前ら最高だぜ!」
「これからも共に人事を尽くすのだよ」
熱く友情を確かめ合う彼らを他所に、すみっこで膝を抱えた火神はほろりと涙を溢した。
「もうホント、お前ら嫌い…」


fin 2014/2/23
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