■青峰×テツナ

□目隠し 2
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この一週間ずっと、青峰は黒子を避けてきた。
部活後の自主練は体育館を転々とし、同じ空間から逃げた。会話のチャンスをことごとく潰してきた。
寂しさを感じないわけではない。けれど、自分はいない方が良いのだ。彼女の幸せを思うのならば。
雑念をぶつけるようにひたすらバスケに打ち込む。気が付けば体育館に一人になり、すっかり外は暗くなっていた。
今日はもう帰ろう。
部室のドアを開けるなり、青峰は固まった。
部屋の中にはぽつんとベンチに座る黒子がいた。
「青峰くん」
思わず踵を返しかけた青峰を、静かな声が止める。
「話が、あります」
「…俺はねぇよ」
突き放せば黒子は僅かに顔を歪める。黒子が傷付けば、青峰の胸はツキツキと痛む。
だからもう、話したくない。一刻も早くこの場から逃げたい。
「…話さなくて良いです」
着替えるためにロッカーを開けた青峰の背中に、黒子が声を投げる。
「青峰くんはなにもしなくて良い、ですから…」
ぎこちなく手を引かれる。
触れ合うのは一週間ぶりだ。
決して高くはない黒子の体温がやけに熱くて、青峰は動けなくなった。導かれるまま黒子の隣に座る。
青峰くん。黒子が呼ぶ声が遠くに聞こえる。黒子は青峰の胸に手をつくと、ふわりと唇を重ねた。
「…テツ…?」
茫然とする青峰に黒子は何かを言いかける。だが結局言葉になることはなく、唇を結ぶと頭を下げた。
「っお前、なにして…!」
ジャージに手をかけた黒子は躊躇いなく青峰のものを口に含む。ぬるりとした感触に、青峰は息を呑んだ。
「…っん…」
くぐもった声は苦し気だ。黒子の意図が分からない。
青峰に見えるのは眼下で揺れる水色だけで、その表情も気持ちも、見えない。
「は…っ」
離れた黒子の口から透明な糸が引く。顔を上げた黒子の瞳は、泣きそうな色をしていた。
「…なにも、しなくて良いです…」
同じことを繰り返して、黒子は青峰の肩に手を置いた。足の上に乗り上げた黒子の片手が屹立を支える。
何をしようとしているのかを理解し、やっと青峰は動いた。
「やめ…!」
しかし、黒子の方が早かった。
「っあぁ!」
青峰を体に埋めた黒子から短い悲鳴が上がる。
俯いた黒子はきつく目を閉じ、歯を食いしばる。痛みに震える体はそれでも尚、強引に奥まで暴かれることを受け入れた。
「…う、っく…」
引き結ばれた唇から漏れるのは泣き声だった。
強く掴まれた肩が痛い。それ以上に、心が痛い。
ゆっくり腰を浮かした黒子からは堪えきれない悲鳴が上がり、涙が頬を伝った。限界だった。
「この、馬鹿…!」
力づくで小さな体を引き剥がす。
「っや…!」
しがみつこうとする腕を掴んで止める。
「ぁ、いや…離して…っ」
暴力から逃がそうとしているのに、黒子はそれを拒否する。必死に青峰に手を伸ばす。
「や…嫌!離して!」
首を振る黒子の言葉を聞かずに無理やり引き抜けば、彼女は泣き叫んだ。
「いやぁっ!」
痛みはなくなったはずなのに、黒子は泣く。声を上げて先刻以上に泣きじゃくる。
―――どうして自分は、彼女の涙を止める術を持たないのだろう。
青峰は目を閉じて、黒子をきつく抱き締めた。
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