フェアゲーム

□黒子の答え
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黄瀬が戻り、日課の1on1が復活する。しかし、今度は黒子がいなかった。
「黒子っちがいないとやる気出ないんスけどー」
「文句言うな」
たしなめる青峰のモチベーションも低い。
探しに行こう、という考えが出ないわけではない。けれどなかなか行動に移せないのは、怖いからだ。黒子の口から答えを聞くことが。この関係が、終わってしまうことが。
おそらく、黒子が姿を消しているのも、それが理由なのだろう。
青峰は数回ボールをついてゴールを狙う。だが、その手からボールが放たれることはなかった。こんなもやもやを抱えたままで、バスケなど出来ない。
青峰は諦めて、手を下ろした。
「…行くか」
「ん」
この歪な関係に終止符を打つために。


とりあえずここから、と思って訪れた部室で、さっそく正解を引いた。
「テツ…!」
「黒子っち…なにしてんスか!?」
黒子はこちらを向いて、部室の床に正座していた。黄瀬が慌てて黒子を抱き上げる。
「ああー…足冷たくなっちゃって…」
ベンチに座らされた黒子は、痛ましげに足に触れる黄瀬の手を取った。
「黄瀬くん」
次いで、険しい顔して傍らに立つ、青峰に目を遣る。
「青峰くん」
答えを。二人のうちどちらを選ぶのか、結論を出さなくてはいけない。
「ずっと、考えていました」
悩んで悩んで、多分一生で一番頭を使って、答えを出した。
黒子は意を決して顔を上げた。
「すみません。選べません」
結局辿り着いた答えは、以前と同じだった。あのときよりもたくさん考えたけれど、やっぱり言えることは一つだけなのだ。
「二人とも大好きです。どちらも失いたくありません」
あざとい、なんて分かっている。我が儘は自覚している。
だけど選べない。どうしても、三人でいたい。
「…うん」
膝の上で握り締めた拳に、黄瀬の手が重なった。
「それで、いいよ」
弾かれたように黄瀬を見る。彼は、柔らかく微笑んでくれる。
「ま、なんとなくこうなる気はしてたしな」
青峰は黒子の隣に座り、眉を下げて笑った。
「俺もいいぜ、それで」
受け入れてもらえた。三人でいていいと、許してもらえた。
悩みが深かった分安堵は大きくて、黒子の目には温かな雫が溜まった。
「…ありがとう」
それぞれの手を取って、胸に抱く。過ぎるほどに、幸せだと思った。
「黒子っち…」
「テツ…」
良い雰囲気を壊したいわけではなかったけれど、二人の我慢はそろそろ限界を迎えようとしていた。
嬉しいと涙ぐむ。大好きと言って微笑む。この可愛さはあざと過ぎる。
握られた手のひらから伝う体温に、つい襲いかかりたくなる衝撃を、ぎりぎりのところで耐えていた。
黄瀬と青峰は短いアイコンタクトを交わした。とにかく今は、一刻も早く。
「…帰るか」
黄瀬の家にでも連れ込んでしまえば、あとはどうにでもなる。
帰宅の準備をしようとした二人を、黒子が止めた。
「…ここで、いいです」
羞恥に潤んだ瞳で、我慢出来ないのは自分も同じなのだと彼女は訴える。
「今すぐしたいです…三人で」
踏み留まっていたぎりぎりのところから、二人は躊躇いなく身を投げた。
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