フェアゲーム

□対比その1:黄瀬の場合
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モデルの仕事で3日間、黄瀬が東京を離れることになった。
「いい機会かもな」
青峰が呟く。
付き合い始めてからずっと、三人はいつも一緒にいた。離れてから見えてくるものもあるだろう。
「もう一度、ちゃんと考えて」
黄瀬に手を取られる。
「テツは」
「黒子っちは」
―――どっちが、好き?


抜け駆け禁止。黄瀬と青峰が交わした誓いは固かった。
黄瀬が3日間不在になるというのなら、同じ3日間、黄瀬は黒子を独占する権利を得た。
「なんでまた…」
独占期間中、黒子が連れて来られたのはお洒落なホテルの一室だった。
「どうせなら普段できないことをしようかと思って」
三人だと入り辛いしね。黄瀬は笑って黒子の手を引く。
迷うことなく辿り着いたのは、寝室だった。
「じゃあ、とりあえず…」
ベッドに座らされた黒子の前で、黄瀬は上着を脱ぎ捨てた。
「気持ち良いこと、しようか」
―――場所が変わってもやることは同じじゃないか。
文句を言う前に、黒子の体はベッドに沈んだ。


「あっ、や…また…っ!」
黒子は黄瀬の肩を掴んで首を振った。
「イキそう?」
笑い声が肌をなぞるのにさえ反応してしまう。
「いいっスよ」
イって。囁かれると同時に体が痙攣する。
今日二度目の絶頂は、体内に埋まった黄瀬の指が導いた。
「ぁ…」
呼吸をすることだけに意識を傾けていると、見上げた黄瀬が微笑んだ。
「可愛い」
頬を包まれて、蕩けるようなキスがある。
黄瀬とのキスは気持ち良い。舌を絡め合う音が、脳まで痺れさせる。
「ん…んっ!」
口付けたまま、体内の指を動かされる。
「んんっ…はぁ、や…っ」
もどかしさに黒子は身を捩った。
黄瀬は執拗なまでに黒子に触りたがる。でももう、一方的に与えられ続けるのは嫌だった。
「ぁ…も…お願っ…!」
黄瀬の手を押さえて訴えると、ようやく指が抜かれた。代わりに黄瀬が足の間に体を入れれば、期待に体が震えた。
「あ…あぁんっ!」
ぐずぐずに溶けきった中に黄瀬のものを受け入れる。
やっと与えられた熱に、黒子は甘く鳴いて悦ぶ。
「あっ、あぁ、や、あ…っ!」
耐えるためにシーツを握っていた手を黄瀬に取られる。指を絡めて握られる。
「好きだよ」
囁きが落ちれば心まで絡み合う気がする。
近付く限界に、黒子は口を開いてねだった。
「…キス、して…」
望むまま、すぐに唇が重なる。
息まで奪うように貪り合う。足りなくなる空気の代わりに、愛しい気持ちで満たされる。
ぜんぶが溶け合うような心地好さに、黒子は身を任せた。


「別にわざわざホテルまで来なくても良かったんじゃないですか?」
火照った体に冷たい水を流し込みながら問う。
「そうなんスけどね」
なんと言うか。言葉を探した黄瀬は、眉を下げて僅かに唇を上げた。
「…思い出作り?」
それでようやく黒子も気付く。
どちらかを選ぶということは、どちらかを選ばないということだ。もし黒子が青峰を選んだのなら、黄瀬と恋人でいられるのはこの3日間が最後なのだ。
気付いてしまえば何も言えなくなる。黄瀬は投げ出されたままの黒子の手を握ると、祈るように額に当てた。
「黄瀬くん…」
苦しくなるくらい切なくて、黒子は想いを吐き出した。
「好き、ですよ」
「…うん」
顔を上げた黄瀬は、目を細めて少しだけ笑った。
「6日後にもう一度聞かせて」
柔らかく抱き締められながら、思う。
―――彼と離れるなんて考えられない。


2013/7/10

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