フェアゲーム

□抜け駆け禁止
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お付き合い開始から一ヶ月。三人の関係の進展は、亀の歩みよりも鈍かった。
黄瀬も青峰も、決して奥手ではない。しかし付き合ってすぐに勃発した『初キス争奪戦』が、互いを動けなくさせていた。
抜け駆け禁止を固く誓い合ったらしい二人は、手を握る以上のことはしてこない。
けれど黒子に、不満は無かった。
「準備は良いっスか?」
「おう」
「はい」
今日、というか大体いつも、黄瀬の家には両親がいないらしい。だから泊まりに来ないかと誘われた。
もちろん青峰と二人で、だ。
「じゃあ行こうか」
笑って差し出された黄瀬の手に自分の手を重ねる。逆の手は青峰に取られる。
三人並んで歩き出す。両手にはいっぱいの幸せがあるから、黒子には何の不満も無い。
だが両端の二人は、これだけで満足できるはずがなかった。


先にお風呂を借りてリビングに戻った黒子は、目を疑う光景に言葉を失った。
「………なんで正座してるんですか」
フローリングの床の上には、並んで座る黄瀬と青峰がいる。
「黒子っち、こっち来て」
思い詰めた顔で呼ばれて、黒子は躊躇いながらも二人の前に座った。
「…二人で話し合ったんだけどよ、キスは黄瀬に譲るわ」
「え…」
何を言っているのかと青峰の方を向こうとした黒子を、黄瀬が阻む。頬を両手で包まれて、黄瀬しか見えなくなる。
「好きだよ」
甘い言葉を吐いた唇が、自分のそれと重なる。生まれて初めてのキスはふわりと優しいもので、胸が温かくなった。
「黄瀬くん…」
名前を呼ぶともう一度口付けられる。今度はさっきよりも深く長く。
柔く食まれる感触に集中していたら、不意に背後から腕が伸びた。
「っん…」
「代わりに『初めて』は俺が貰う」
何の。なんて、問うことは出来なかった。
青峰の両手が胸を包み込む。あれ、という声がした。
「お前、ブラしてねーの?」
もう寝るだけだと思っていたのだ。こんな展開、予想もしていなかった。
嬉しそうな笑い声がして、青峰はパジャマ越しに胸を揉む。
「んっ…んぅ」
黄瀬は口を離してくれないから、くぐもった声しか出せなかった。
苦しくてつい口を開くと、隙間からするりと舌が入り込む。
「んんっ!」
服の上からでも分かるくらい主張するものを指で挟まれて、ビクリと体が跳ねた。
「ぅ、ん…はっ…」
ようやく唇が離される。酸素が足りなくてくらくらする。
「体、見てぇな」
「そうっスね」
ぼんやりした頭でも危険は感じ取れた。逃げようとした体を捕らえられる。
「や…」
青峰に片腕で抱えられ、ソファーの上に座らされる。思わず上げた左手は青峰に握られ、抵抗の言葉も封じるように唇を塞がれた。
「んー…っ」
ソファーに付いていた右手は、指を絡めるようにして黄瀬に握られる。何も出来ず、言えないまま、黄瀬の手がゆっくりとパジャマのボタンを外すのを感じた。
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