フェアゲーム

□はじまり
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不幸は連続して訪れるというけれど、幸福もそうなのだろうか。
部活が始まる前に話があると黄瀬に呼び出されて早めに部室に行ったのが今日の放課後。
「黒子っちが、好きです」
待っていたのは予想だにしていなかった愛の告白だった。
ふわふわした気持ちのままでその日の部活をこなす。帰ろうとした黒子を青峰が呼び止めたのもまた、二人きりの部室でのことだった。
「お前が好きだ」
二回目の告白は同じ日に、同じ場所で、違う人から。
返事は今でなくて良いと二人は言った。びっくりし過ぎて何も言えなかったけれど、本当はすぐにだって返事をすることはできた。
―――私も好きです。
二人とも。同じくらいに。


「それは、なんて言うか…」
桃井は口元を押さえついた手を外すと、親指を立てて握った。
「やるわね、テツナちゃん」
笑顔が眩しい。黒子はファーストフード店のテーブルに顔を伏せた。
黄瀬と青峰。どちらも選べない黒子は、どちらも良く知る桃井に相談を持ちかけた。
返事を保留にしたまま、もう一週間になる。さすがにそろそろ決着をつけなくてはいけないだろう。
「いやホント、すごいわー。きーちゃんと大ちゃんでしょ。バスケ部2トップじゃない」
モテる2トップ、という意味だ。
黄瀬は言うまでもないとして、青峰も相当女の子に人気がある。彼は見た目も悪くないし、何気に面倒見が良い。そこにバスケ部エースという肩書きが付けば、惹かれないわけがない。
だから、選べない。
二人とも、類い希な程に格好良い。でも二人の格好良いの種類は異なる。各々が自分だけの輝きを持っている。
本当に、同じくらい大好きなのだ。
黒子が顔を上げながら重い息を吐くと、桃井は飲み物をかき混ぜながら笑った。
「ねぇ、テツナちゃん」
悪戯の相談をするみたいに顔を近づける。
「『どっちか』を選べないのなら、『どっちも』を選べば良いんじゃない?」
桃井の提案は黒子の常識を激しく揺さぶり、壊した。


好きな人が被った、と知ったのは結構前のことだった。
お互いがお互いに牽制を重ねる不毛な日々を越えて、堪えきれなくなった二人は同じ日に想いを伝えると誓った。
黒子がどちらを選ぼうと、恨みはしない。
一世一代の告白から一週間。二人は想い人から呼び出しのメールを貰った。


「すみません。選べません」
三人揃うなり黒子が放った言葉のパスは、一週間悶々とさせられ弱った二人の心を容易に打ち砕いた。
「共倒れとは予想外っス…!」
崩れ落ちる黄瀬の横には同じ格好をした青峰がいる。
「…傷心旅行、は…」
「…海で」
「…海か。いいな…」
暗い笑みで切ない相談をする二人の傍らに、黒子がしゃがみ込む。
「二人とも、好きです」
黄瀬と青峰が顔を上げる。黒子はもう一度、言った。
「大好きです」
もしこの場にいるのが三人でなかったら。好きの頭に「二人とも」が付いていなかったら。間違いなく飛び上がって喜べた。
平等に注がれる愛に、二人は一度顔を見合わせて、再度黒子を見た。
「それは、つまり…」
「俺たち二人と付き合うってこと…?」
黒子は困ったように笑うと、上目遣いで小首を傾げた。
「…駄目ですか?」
―――あざとい…!
だが、可愛い。あざと可愛い。
二人は考えた。
もし黒子の申し出を断ったのなら。得るものは傷心旅行への切符だけだ。黒子は離れていってしまう。
だが、もし申し出を受け入れたのなら。黒子は念願の恋人というポジションに収まってくれる。それを思えば余計なものも一つ付いてくることなど、取るに足らない問題だろう。
「…仕方ないっスね」
「どちらか決められるまでだからな」
承諾すればパッと笑顔が輝く。
「はい」
これからの三人の始まりに、黒子は頭を下げた。
「よろしくお願いします」


2013/1/15

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