黄瀬×テツナ(中学時代)

□あかしやきボックス
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委員会で遅くなってしまった。もうとっくに部活は始まっているはず。
急いで準備しようと部室のドアを開けた黒子は、ドアノブを持ったまま固まった。一旦ドアを閉めてプレートを確認する。
大丈夫だ。ここはバスケ部の部室で間違いない。
再度部室に足を踏み入れる。今度は怯むことなく、部屋の中の異物をまじまじと観察する。
そこには、後ろ手に縛られて柱にくくりつけられた、美女がいた。
黒子の視線から逃れるように体を動かす度に、緩い曲線を描く金の髪が揺れる。白いふわふわのワンピースと相まって、その姿は人形の様だった。
黒子が傍に寄ると、彼女はびくりと震えて怯えた目で見上げてくる。
頼り無げに揺れる琥珀色の瞳。その特徴的な色を確認するまでもなく、黒子にこの人が分からない訳がなかった。
「黄瀬くん、ですよね?」
ぎくり。隠しようのない反応が返るのに、『美女』は抵抗するように顔を背けた。
「…違います。囚われの姫です」
「………」
黒子は部室を後にした。


既に練習が始まっている体育館で、青峰を捕まえる。
「なんか部室に囚われの姫がいるんですけど」
「ああ、いるだろうな」
当たり前みたいに答えながら、青峰はボールを放る。
ゴールネットを潜るのを確認することなく、青峰は振り返った。
「あいつはな、魔王に捕まってあんな姿に変えられてしまったんだ」
「いいから詳細を話してください」
求められるまま、青峰は黒子が不在だった間の出来事を話してくれる。
それを聞けば、青峰の言葉は間違っていないのだと理解できた。
彼は確かに、魔王に捕まってあんな姿に変えられてしまったのだ。


黄瀬は部室の床に正座させられ、ベンチに座る赤司に見下ろされていた。
「残念だよ、涼太」
わざとらしいため息に、黄瀬はびくっと肩を震わせる。
「この前の試合でノルマの20点を取れなかったのはお前だけだ。これは、お仕置きが必要だね?」
「…なにを、するんスか?」
怯えた視線を受けて、赤司は微笑む。
「さつき」
「はい」
赤司に呼ばれ、桃井がさっと彼の傍らに寄る。その手に謎の箱を抱えて。
「あかしやきボックスかよ…!」
様子を見守っていた青峰が苦渋の表情になる。
「明石焼き…?また美味しそうな名前っスね」
「お前はあの箱の恐ろしさを知らないのだよ…!」
「黄瀬ちん、かわいそー…」
緑間と紫原の反応を目の当たりにして、意味が分からないながら黄瀬も青ざめる。
「なんなんスかそれ…」
「涼太は初めてだったね」
これがどういうものか分からせてあげよう。赤司は言いながら、箱の上に丸く開いている穴から中に手を突っ込む。がさがさと中を探って外に出てきた手は、一枚の紙を握っていた。
赤司は紙に書かれている文字を確認すると、黄瀬を見た。
「涼太、『ス』の前に『ザン』を付けて喋れ」
「ザン…?」
黄瀬は考えて、口を開く。
「なんかそれ…すごく嫌ザンス」
赤司は満足気に笑って頷いた。
「分かればいい。じゃあ本番いくぞ」
「え?いや、ちょっと待っ…」
黄瀬が止めるより早く、赤司は箱に手を入れて新たな紙を取った。
「…これはまたベタな…」
ふっと笑った赤司は、不安に固まる黄瀬に紙を向けてやった。そこに書かれていた文字は。
―――『女装』。
黄瀬は文字から目を逸らした。
「…事務所を通してください」
「知るか」
ぱちん、と赤司が指を弾くと、紫原が黄瀬を羽交い締めにする。
「え、ちょっ…ちょっと…!」
暴れる黄瀬は、視界の端にロッカーの前で相談し合う青峰と桃井と緑間を捉えた。
そこはあかずのロッカーと呼ばれていたはず。黒子にも「決して開けてはなりません」と言われていたのに。
「金髪のウィッグってあったっけ?」
「あるある。何色でも対応できるよ」
「服はどうするのだよ?」
三人はうきうきと中を物色する。ロッカーの中には衣類や装飾品がところ狭しと詰められていた。
「きーちゃんはやっぱ白かな」
「ならこのワンピースなのだよ」
「すっげー、これめっちゃ姫じゃね?」
青峰が爆笑しながらふわふわの服を黄瀬に見せつける。
「ま…待って待って!」
制止を聞かずに桃井がウィッグを合わせようとする。
黄瀬は叫んだ。
「やるならメイクしてからにしてっ!」
「ノリノリかよ」
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