黄瀬×テツナ(大学時代)

□それを贈るのが彼ならば
1ページ/1ページ

「なぁ」
忘れ物を届けるついでに黒子が青峰の部屋に居座って数時間。ふと思い出したように、青峰は黒子に声をかけた。
「お前、なんか欲しいもんある?」
「…身長」
「非売品はナシで」
「黄瀬くんとの時間」
「非売品はナシだっつってるだろ」
「黄瀬くん、今日も仕事なんですよ」
「知らねぇよ!」
会話をする気がないと見せかけて、黒子は会話の本質を掴んでいた。しかも的確に。
「桃井さんにプレゼントですか?」
「…まぁ、な。毎年貰ってばっかだから、たまには返そうかと思って」
青峰くんもすっかり丸くなって。口にはしなかったけれど表情に出てしまったため、青峰は露骨に嫌そうな顔になった。
「そういうことなら、私よりもっと女子力が高い人に聞くべきです」
「…さつき本人には聞けねぇだろ」
「いえ、桃井さんではなく」
言いながら黒子は携帯を手にした。


彼女よりも女子力の高い彼氏はメールの指示に従い、仕事が終わると自宅ではなく青峰の家に直行した。
「プレゼント…スか」
簡潔に成り行きを聞いた黄瀬は、コートを脱ぎながら答えを提示する。
「花束持って跪いて、愛を囁けばいいんじゃないスか」
「お前、テツ以外の相手には時々すげー適当だよな」
「黄瀬くん、ちゃんと力になってあげてください」
「予算と日程を事細かに教えるが良いっス」
「礼を言うとこなんだろうけどなんかムカつく」
黒子の忠犬は主人の命令で本気になったらしい。狭い部屋の中心に、三人で固まる。
「とりあえず雑誌とかでリサーチしてみる?俺ちょうど見本誌持ってるっス」
「ちなみに黄瀬はなにが欲しいわけ?」
「そりゃあ当然、黒子っちとのじか―――」
「もういいわ、お前ら帰れ。二人で素敵なクリスマスを過ごしやがれ」


しかし関わってしまったからにはもう後戻りはできない。
三人は雑誌を捲りつつ桃井の好きそうなものについて意見を出し合うが、なかなか結論は出ない。いたずらに時間だけが過ぎる。
青峰が飽きてきた頃、突然黄瀬が雑誌を閉じた。
「…違うっス」
「なにが?」
「青峰っちがプレゼントするってだけで、その品にはとんでもない付加価値が付くはずっス」
黄瀬は雑誌に手を乗せたまま、真剣に青峰を見つめた。
「大事なのは何をあげるかじゃなくて誰があげるかじゃないスか」
「…お前、たまに良いこと言うな」
「どうせなら素直に誉めて」
考えすぎなのかもしれない。
青峰は久しぶりに酷使した頭を空っぽに戻し、床に倒れた。体を伸ばす横で、まだ二人は話し合いを続ける。
「でも青峰っちが香水とかあげたら気持ち悪いっスよね」
「ぬいぐるみとかもちょっと気持ち悪いですね」
黄瀬と黒子は険しい顔を見合わせる。
―――青峰があげても気持ち悪くないものとは何か。
「いいからホントにお前ら帰れ」


クリスマス当日の夜。青峰は自宅の最寄り駅で黒子に会った。こんな日ですら夜は仕事だという人気モデルの彼女は、それでも満たされた顔をしている。
「それで、結局桃井さんへのプレゼントはどうなったんですか?」
「…手袋にした」
「おお、気持ち悪くないです」
「うるせーよ」
「ぎりぎりで」
「それでもぎりぎりなのかよ!」
噛み付いてから青峰はまじまじと黒子を見た。
「お前、は…」
「はい?」
「………なんでもねぇ」
素敵なクリスマスを過ごせたか、なんて聞くまでもない。聞きたくない。
黒子は腕いっぱいに花束を抱えていた。


fin 2012/12/24

テーマ「女子力」「休日出勤」「クリスマス」でした。
クリスマスに休日出勤な私の心の叫びです。あと手袋が欲しいです。サンタさん。

どうぞ素敵なクリスマスをお過ごしください。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ