黄瀬×テツナ(大学時代)

□キセキの親衛隊
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その日は珍しく、二人揃って大学が午後からだった。
寝る前に止めたアラームの代わりに、黒子は美味しそうな匂いで目を覚ました。
「…きせくん?」
寝惚け眼を擦りながらダイニングに行くと、調理中の黄瀬が振り返る。
「おはよ、黒子っち。…まぁ、もう昼だけど」
いつも通りの髪の爆発ぶりに笑って、黄瀬は開ききっていない目元にキスを落とす。
「もう少しでご飯できるから、先にシャワー浴びておいで」
バスルームに送り出されて、黒子はのろのろとシャワーを浴びる。ようやく頭が活動し始める。
家を出るまであと2時間はある。急ぐことなく贅沢に時間を使って浴室から出る。
着替えて髪を乾かしていると、洗面所のドアをノックする音が聞こえた。
「…ご飯できました?」
ドライヤーのスイッチを切って尋ねると、笑顔と頷きが返る。
「髪乾かしたら行きます」
もう一度スイッチを入れようとした黒子の手から、優しくドライヤーが奪われた。


「………黄瀬くん」
「…ん」
「私、学校行くんですけど…?」
呆れ口調で言うと、黄瀬は一呼吸分の間の後、ハッと手にしていたグロスを落とした。
「か…体が勝手に…!」
髪を乾かしてくれたのは、いい。しかし黄瀬はそれで留まらなかった。
息をするような自然さで手を動かすから、黒子が口を挟んだ時にはもう、メイクはほぼ完成されていた。
黄瀬は光輝く黒子を一瞥し、遠くを見た。
「…職業病…スかね…」
「職業のせいかは分かりませんが、病気だとは思います」
そうこうしている間に、出かける時間まであと30分をきっていた。焦る頭で優勢順位を考える。
メイクを落とす暇はない。そんな時間があるのなら、ご飯を食べる。
大学に化粧をしていったって、何も問題はないだろう。
そんな甘い考えを抱いていたことを、黒子は後悔することになる。


起きる、と同時に重く息を吐く。
「どうしたんスか?体調悪い?」
傍らの黄瀬の気遣いに、緩く首を振る。
「…学校、行きたくないな…って」
小さく泣き言を言うと、黄瀬は驚きに目を瞠った。
「登校拒否…!?黒子っち、もしかしていじめられてるんスか!?」
「いえ、違…」
「すぐにキセキの親衛隊を呼び出すっス!」
「キセ……え?今なんて言いました?」
黒子の問いには答えず、黄瀬は携帯を耳に当てる。
「一大事っス!至急全員に召集を―――」
「かけなくていいです」
皆まで言い終わる前に、黒子が通話終了ボタンを押す。
「大丈夫です。こないだのメイク後の姿を見られて以来、ちょっと学内で付きまとわれているだけです」
「充分一大事じゃないスか!皆は呼ばずとも、俺だけでも行こうか?」
「黄瀬くんの手を煩わせるほどのことではありません。それよりさっきの親衛隊とやらはいつの間にできたんですか?」
「心配っス…」
「聞いてください」
黄瀬は柔らかく黒子を抱き締めるだけで、質問に答える様子はなかった。
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