黄瀬×テツナ(大学時代)

□幸せサンド 2
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久しぶりに会った桃井のために黄瀬が腕を奮ったことで、今宵の宴会は酒以上に多彩な料理がテーブルの上を飾った。
ある程度の料理を出しきり、ようやく黒子の隣に落ち着いた黄瀬に、桃井は感謝と称賛の言葉を浴びせた。
「きーちゃんの料理、美味しいし懐かしい」
「どーも」
「俺ら、黄瀬の手料理で育ったようなものだもんな」
「お母さんっスか!」
桃井の隣には青峰。中学時代から仲の良い4人が揃えば、自然と話は盛り上がり、酒は進んだ。
桃井はワインの入ったグラス越しに、長年に渡って不動の恋人たちを見つめる。
「改めてこうやってきーちゃんとテツナちゃんが並んでるとこを見るとなんか…」
「犯罪くさいよな」
言い渋った桃井の代わりに青峰が言い放つ。
年相応に成長した黄瀬に対し、黒子は未だに中学生でも通りそうだった。
「黒子っちの傍にいられるのなら、犯罪者で良いっス」
「全肯定してないでフォローしてください」
しかし残念ながら黄瀬にフォローの機会は与えられず、レンジの呼び出し音にこの家の料理係はキッチンに消えた。
酒を取るついでに、青峰は黄瀬が空けた席に居座る。
「マジでお前、中学で成長止まってねぇ?」
けらけらと笑われて、黒子は不満にむくれる。
「失礼な。多少は伸びてます」
「サイズは変わらずとも、肌も髪も中学の頃よりずっと綺麗よね」
いつの間にか逆隣に来ていた桃井が黒子の髪に触れる。
「これはきーちゃん効果かな」
髪を撫でていた手はそのまま頬へと滑る。
「テツナちゃんの肌、気持ち良い」
「あの、桃井さん…」
目がヤバいです、は口に出せなかった。
「しかし細っせーな。黄瀬の飯毎日食っててよく太らねぇな」
「ちょっ…」
青峰に腕と腰を確かめるように触られる。
「でも細い割には胸あるよね」
「ひゃあ」
遠慮なく桃井は両手で黒子の胸を揉む。
「あ、あの…桃井さん、青峰くん…っ」
酔っぱらいたちに黒子の声は届かない。
揉みくちゃにされ早鐘を打つ心臓が、アルコールを全身に巡らせる。頭がくらくらする。
かすれゆく意識の片隅で、黒子は唯一残された希望を呼んだ。
―――助けて、黄瀬くん…。


息苦しさに目が覚めた。
縺れ合ったまま寝てしまったのだろう。弛く抱き締めるようにお腹の上に置かれた青峰の腕が重い。逆側から胸元に抱きつくように眠っている桃井が可愛い。これは、またしても。
―――幸せサンド…!!
床の上の拳をぐっと握る。
しばし至福の時を味わい、黒子はふと思いたった。一人足りない。
黄瀬の姿を探して視線を巡らせると、テーブルの上が綺麗に片付けられているのに気付く。
黄瀬は起きているのか、という考えを肯定するように、キッチンで物音がした。
一人で片付けをしてくれたらしい黄瀬は、捲った袖を戻しながらこちらに来る。目が合うと一瞬驚きに目を丸くして、それから黄瀬はぷいっとそっぽを向いた。
「…羨ましくなんか、ないっス」
胸を打ち抜かれた。
可愛い。今すぐ窓から拡声器を使ってどれだけ自分の彼氏が可愛いかを叫びたいくらいに可愛い。とんでもなく、可愛い。
拗ねてる黄瀬を放って置くなんてできない。でも幸せサンドを解くなんてことも、できない。
黒子はここ数年で一番頭をフル活動させた。
どうしたら彼をこの幸せサンドに組み込めるか。
幸い、桃井と青峰の拘束は胴に集中している。黒子は自由になる腕を伸ばした。
黄瀬は差し出された手をちらりと見るが、その場から動こうとはしない。だから、優しく優しく呼んだ。
「黄瀬くん」
それでもしばらくの逡巡の間の後、黄瀬はようやく黒子の傍らに座った。
黒子の手に頬をすり寄せて、目を閉じる。引き結ばれていた口元が弛く弧を描くのを目にすれば、黒子の幸せメーターは振り切れる寸前だった。
あと一撃。もしこの場で更なる幸運に見舞われたら、多分自分は死ぬ。
「………」
それでもいいな、と黒子は思った。


fin 2013/01/07

ここに更に火神を組み込んだら、昇天間違いなしです。

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