黄瀬×テツナ(大学時代)

□幸せサンド
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テーブルの上に所狭しと並べられた酒の大半が飲み尽くされた頃、黒子がふあ…と欠伸をした。
気楽な宅飲みに時計を気にすることはなかったが、いつの間にか日付も変わり、常ならばそろそろベッドに入っていてもおかしくない時間だった。
「眠くなっちゃった?」
黄瀬は笑って手にしていた酒をテーブルの上に置くと腕を広げた。
「おいで」
黒子はふらふらと立ち上がると、倒れ込むように黄瀬の腕の中に収まった。
黄瀬は片腕で黒子を抱いたまま、飲みに戻る。
「…なんかさぁ」
一連の流れを片肘を付いたまま正面で見守っていた青峰は、脱力した声を出した。
「どちらかといえばお前、『お父さん』っぽくね?」
「何を言うんスか」
黄瀬は不満気に口を尖らす。
「俺と黒子っちは不動のラブラブカップルっスよ。それに…」
缶に触れた口の端を、僅かに上げる。
「『お父さん』なのは青峰っちの方じゃないスか」
「はあ?」
なに馬鹿なこと言ってんだ、という反応に、黄瀬は身を乗り出した。
「じゃあ、黒子っちがお嫁にいくところを想像してみてよ」
「………」
青峰は真剣にこちらを見据える黄瀬の目から、安らかな寝顔を覗かせる黒子へと目線を移動させた。
白いドレスに身を包んだ、花嫁姿の黒子を思い描く。
―――お世話になりました。
脳内の黒子は、それはそれは綺麗に微笑んで頭を下げる。同時に、今までの思い出がぶわっと溢れた。
中学1年で出会ってから、だから、単純な期間だけならば黄瀬よりも長く、青峰は黒子を見てきた。
―――青峰くん。
笑った黒子を思ったら、涙がぽたりと落ちた。
「…テツ…俺のテツがなんでこんなチャラい男に…っ」
「テツナさんは俺が幸せにするっス」
「うるせー!」
青峰の酔いどれパンチが黄瀬の頬に炸裂した。
「ああっ」
殴られた衝撃で体勢を崩すと、腕の中の黒子が目を覚ました。
「…きせくん?」
倒れている黄瀬と泣いている青峰を交互に見て、黒子は一瞬で青峰側についた。
「なにあおみねくん泣かせてるんですか」
「黒子っち、俺の心配は…?」
泣き言を言う黄瀬は放置して、黒子は青峰の頭を撫でる。
「あおみねくん、泣かないで」
「テツ…!」
抱きつく青峰をよしよしと宥めながら、黒子は目を閉じた。


―――え?
ふと目を覚ました黒子は、現状を把握するなり目を丸くした。
部屋は暗い。あのまま寝てしまったのだろう、床に転がっている、のは別に良い。問題なのは、自分の両手だった。
右手は青峰が、左手は黄瀬が握っている。これは。
―――なんという幸せサンド…!!
今の気持ちを一言で表現するのなら、「鼻血が出そう」だった。
悶えたい。思う存分身悶えたい。
しかしそんなことをすれば二人を起こしてしまう。幸せサンドを壊すなんて愚行ができるはずがなかった。
「っ…っっ!」
声もなく幸せを叫ぶ。多少足をばたつかせるくらいでは、二人は起きなかった。
―――ありがとう!!
何かに感謝して、黒子はそっと両手を握り返した。
二人が起きてしまうまで。もう暫く、この幸せを堪能することにする。


fin 2013/01/04

対黒子、最上級幸せサンド。
青峰さんは『お父さん』というより『お兄ちゃん』ですよね。

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