黄瀬×テツナ(大学時代)

□AM2:48
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「ただいま…」
返事がないことは分かっているから、小声で帰宅を告げる。
時刻はAM2:20。黒子には撮影で遅くなるから先に寝ているよう伝えてある。部屋は暗く、物音一つ無かった。
眠い。疲れた。黒子っち分が足りない。
全ての欲求を満たすため、足は寝室へと向かった。ベッドの中でふわふわの水色を見つけて気持ちと口元が綻ぶ。
「…ただいま」
ほとんど吐息だけで伝えて、閉じられた瞼に羽のようなキスを落とす。
それだけで心も体も軽くなる。
シャワーでも浴びてこようと立ち上がりかけた黄瀬の手に、温かな手が触れた。
「…黒子っち?」
黒子の目が開く気配はない。だからこれは無意識の動作なのだろう。
きゅ、と指先を握られる。
可愛い。身悶えたくなるのをぐっと堪える。
離れるなんて勿体ないことができるはずもなく、黄瀬はそっと黒子の横に体を倒した。
捕まっていない方の手で柔らかな水色の髪を撫でる。
蕩けるような幸せな時間は、優しく睡眠を誘う。
シャワーとか全部明日にして、もう寝てしまおうとした時、黒子が身動いだ。
「ん…」
起きる、かと思いきやそうではなく、黒子は黄瀬の胸元に擦り寄る。
「…せ…く…」
小さく小さく、でも確かに黒子は黄瀬を呼んだ。
続いてその口から漏れたのは穏やかな寝息だったから、眠っているのは間違いない。それなのに。
自分の顔が赤くなるのが分かった。
眠りに就く寸前だった目は一瞬で覚めた。ついでに目だけではなく、男の性も目覚めた。
密着する黒子の体温が、もはや誘惑にしか感じられない。
―――ごめん。
心の中で謝って、布団の中の体に手を伸ばす。細い腰を撫でるとくぐもった声がした。
「…ん…っ」
僅かに残っていた理性が跡形もなくふっ飛んだ。
衝動のままに服の中に手を潜らせる。滑らかな肌を手のひらで楽しむ。
手を上へと移動させながら抱き締めるように黒子の髪に顔を埋める。甘いシャンプーの香りがする。
熱い息を吐いた時、
「…ふぇ」
黒子の毛先が鼻をくすぐった。
「っくし!」
くしゃみした体勢のまま固まる。
上がった熱がざあっと音を立てて下がる。
恐る恐る体を離すと、こちらを見つめる氷のような瞳と目が合った。


「ごめんなさい黒子っち!中に入れて!」
時刻はAM2:48。
閉じられた寝室の扉が開く気配はない。


fin 2012/12/22

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