黄瀬×テツナ(大学時代)

□Candy my life
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「いらっしゃい」
玄関で出迎えてくれた二人を見て、青峰は目を細めた。
その付き合いの長さもあって、二人はもはや新婚と呼んでも違和感はなかった。
「引っ越しのときはありがとう。青峰っちがいてくれてホント助かったっス」
二人の引っ越し先が青峰の住居から徒歩30分だと判明したのは、既に契約まで完了した後だった。
その事実を知らされた時は転居まで考えた青峰だったが、中学、高校と二人を見守ってきたこの宿命からは逃れられないと開き直った。引っ越しを手伝い、そのお礼として今日は新居に招かれたのだった。
「じゃあもうちょっと準備があるから、楽にしてて」
青峰をリビングに通すと、黄瀬はキッチンに消える。
飲み物を運んでそのまま横に座った黒子と軽く近況報告をしあってから、青峰は気になっていたことを口にした。
「お前、なんもしねぇの?」
「料理のことですか?しませんよ」
黄瀬くんがいますから、と言う黒子は何の疑いも持っていない。
青峰は喝を入れるように黒子の両肩に手を置いた。
「お前、このままじゃ黄瀬がいないと何もできなくなるぞ」
きょとんとこちらを見つめる幼いままの友人に、更に言い聞かせる。
「少なくとも人間として駄目になる」
強く説くと、黒子は考えるように目を伏せる。
やがて顔を上げた黒子は、決意のこもった目で頷いた。
「…手伝ってきます」
「おう、行ってこい」


「手伝います」
黒子の申し出に、食材を刻んでいた黄瀬の手が止まる。
振り返った黄瀬は驚きと戸惑いに首を傾げた。
「…大丈夫、っスよ?」
「手伝わせてください」
「…そう?」
じゃあよろしく、と躊躇いがちに包丁とじゃがいもを渡される。
黒子の戦いが始まった。
「………黒子っち」
黄瀬が二品完成させるくらいの時間をかけて、黒子は皮剥きを終えた、はずが。
「これってどんなミスディレクション?」
実が、消えていた。


「黒子っち、指切れちゃう」
「黒子っち、めっちゃ殻入ってる」
「黒子っち、ゆで玉子に逃げちゃ駄目っス」
キッチンから届く不穏な会話を聞きながら、青峰はそろそろだな、と独りごちた。
おそらくそろそろ、黄瀬の限界がくる。
「…これはちょっと力がいるから交代しようか」
決して邪険にすることはない、優しい声が聞こえる。
「あと少しだから、先に青峰っちのところに戻っててくれて大丈夫っスよ」
甘く微笑む顔が目に浮かぶようだ。
「お手伝い、ありがとう」
軽いリップ音が聞こえて、黒子が姿を現す。
テーブルに肘をついてこちらを見つめる青峰と視線を合わせると、黒子は力強く頷いた。
「やりました」
「やってねぇよ」
体よく追い返されてんじゃねぇよ。言ってやりたかったが、黒子の投入は黄瀬の仕事を増やすだけだと良く分かった。いい加減、空腹も限界だった。
きっと口を出すことではないのだろう。これで二人が上手くいっているのなら。
「甘やかされ放題だな、お前」
青峰は苦く笑って水色の頭をかき混ぜた。


このままではいけない。
黄瀬と並んで宴会の後片付けをしながら、黒子は決意を口にした。
「料理、教えてください」
「…それは構わないけど、どうしたんスか、今日は」
熱でもある?はあまりにも失礼ではないだろうか。
黒子は額に当てられた黄瀬の手を握った。
「私、このままでは黄瀬くんがいないと生きていけなくなります」
「それで…何か問題がある?」
「え?」
黒子は考える。
そんなこと、誰がどう考えたって。
「…問題ないです」
「うん」
黄瀬は笑って黒子を抱き締めた。
「俺はもうとっくに黒子っちがいないと生きていけないっスよ」
黄瀬は甘い。態度も声も、共に生きていくこの生活も、砂糖菓子のように甘く、優しい。
「黒子っち」
呼び掛けに顔を上げる。重なる唇は熱くて。
溶けてしまいそうだった。


fin 2012/12/20

黄瀬がわざとやっていたらヤンデレ。
わざとじゃないです。やりたいことをやっているだけ。

甘々未来パロのリクエストを頂いていたので、べったべたに甘くしてみました。
同棲編は、多分ずっとこんな感じ。

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