■おかしなノリの話

□世界平和への一撃 2
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「馬鹿じゃねぇの」
「嫌なのだよ」
一刀両断だった。
世界平和(関東圏内のストリートコートの平和と同義)を守ろう、という黄瀬の訴えは、青峰と緑間には届かなかった。
「つれないっスー」
不満に口を尖らす黄瀬とは対称的に、火神は深く安堵した。
良かった。関東のキセキたちの中で、おかしいのは神奈川のやつだけらしい。
「用がそんだけなら帰るぜ」
「まあまあ」
言うなり立ち去ろうとする青峰の服を、黒子が掴んで止めた。
「せっかく集まったんですし、手ぶらで帰るのもあれでしょう?」
パシン。その手の中で、バスケットボールが小気味良い音を立てた。


黒子の提案で始まった2on2は、「遊び」の枠を優に越えていた。
絶対に負けられない。負けた方は、ジュースとアイスを奢らされるのだ。
「ここで決めれたら終わりだ!青峰を止めろ!」
「分かってるっス!」
このまま青峰がゴールを決めたのなら、青峰・緑間ペアの勝ち。黄瀬が青峰を止めたのなら、黄瀬・火神ペアの勝ち。最終決戦に、ストリートコートは沸騰しそうな熱気に包まれていた。
「勝負だ、黄瀬!」
「来い、青峰っち!」
名勝負と語り継がれる桐皇対海常の試合を彷彿させるような、激しい攻防が繰り広げられる。一歩も引くことなくぶつかり合う二人の間に実力差はほとんど無く、長く続く膠着状態に、青峰は一旦攻撃の手を緩める。つられて黄瀬も小さく息を吐いた、その時。
ドリブルの速度を落とした青峰が、不意に後ろ手にボールを送った。
「あ」
当たり前のようにボールは緑間の手に収まる。完全に隙をつかれた火神は自慢のジャンプを見せることもできないまま、緑間のシュートを呆然と見送った。
「勝負あり」
青峰の宣言に次いで、ゴールネットを揺らしたボールが地面に落ちた。


「しかし見事でしたねー」
感嘆と共に黒子は手にしたボールでたどたどしいドリブルをする。
「当然なのだよ」
「あんな即席チームワークに負けるわけねぇだろ」
その割には接戦だったじゃないか。思えど口には出さず、黒子は小さく笑うに留めた。
逆に言えば、青峰と緑間のチームワークは即席ではないということだ。中学時代のような二人は少し面映ゆくて、とても嬉しい。
黒子が両手でボールを持ったとき、不意に青峰の携帯が着信に震えた。
「…さつき?…なんだよ。……は?」
携帯を耳に当て、歩いていく青峰の背が突風に煽られる。と同時に、緑間の叫び声がした。
「ラッキーアイテムが!飛んでいくのだよ!」
駆けていく緑間の先には、ふよふよと宙を泳ぐ真っ赤な風船がある。さっきまでベンチにくくりつけられていたものだ。何なのかと思っていたが、緑間の仕業らしい。
なんにせよ、急に一人になってしまった。
黄瀬と火神、負け組二人の手伝いにでも行くかと出口に向かいかけた黒子は、不意に腕を引かれて振り返った。
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