■おかしなノリの話

□赤い部屋
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怖い話でもしようぜ、と言い出したのは青峰だった。
本来ならば部活に精を出している時間帯。一人を除いたキセキの面々は、暗くした部室に集っておどろおどろしい空気を作り出していた。
もちろん、普段こんなことをしようものなら、怖い話をするどころかこの場が怖い話の実現場になる。すなわち、彼らが部活をサボった要因は、恐怖の大魔王こと、赤司の不在にあった。
私用で部活を休むという連絡を受け、他キセキの面々は、ここぞとばかりにサボって遊ぶことに決めたのだ。しかし。
「なんかいまいち盛り上がんねーな…」
青峰の意見は全員の総意でもあった。
各々が張り切って話をするものの、どの話も大抵が「その話知ってる」または「それ黒子だろ」で完結してしまうのだ。
「そういえば」
白けた空気を破ったのは、黄瀬だった。
「この部室、壁に穴があるじゃないスか」
あれあれ、と黄瀬は対面の壁にある小さな穴を指さす。
「あの壁の向こうになにがあるか、みんな知ってる?」
「あっちは…空き教室なのだよ」
「そう」
緑間の答えに頷いて、黄瀬は続けた。
「こないだ俺が一人で着替えていたとき、壁の向こうから音がしたんスよ。それで、あの穴から向こうを覗いてみたら―――」
誰かが息を飲む音がする。
黄瀬は声を潜めて、言った。
「真っ赤なんスよ。血みたいに、真っ赤」
「………」
痛いほどの沈黙が落ちる。
恐る恐る口を開いたのは、紫原だった。
「…ねぇ、それってもしかして…」
「ああ、そういえばあの時も赤司っちは部活を休んでたっスね」
瞬間、黄瀬を除いた全員が、一斉に立ち上がった。
「く、くだらねーことやってねーで、とっとと部活行くぞ!」
「俺たちが部活をサボるわけがないのだよ!」
「練習だいすきー!早くいこー!」
あっという間に皆は部室を出ていく。
そして、部屋には黄瀬だけが残された。
「………なんなんスか…」
黄瀬は一人、首を傾げる。
その壁の向こうで、カタン、と小さな音がした。


fin 2013/7/26

もちろん、隣の部屋が赤い訳ではないです。
赤司の利き目は右ということにしておいてください。

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