■おかしなノリの話

□世界平和への一撃
1ページ/2ページ

火神っち。
いつになく真剣な声音で呼ばれ、火神は黄瀬と向き合った。
「こないだ一緒にストリートコートのならず者を成敗したじゃないスか。あの時火神っちはどう思った?」
「どうって…」
「俺はね」
食いぎみに、黄瀬は言葉を被せる。
「いちバスケ選手として、ああいうのは許せない。弱者を守ることが、ひいてはバスケの未来を守ることに繋がると思う」
珍しく黄瀬がまともなことを言っている気がする。
呆ける火神の手を取って、黄瀬は更に続けた。
「だから一緒に世界の平和を守ろう」
あれ?今そんな話してたっけ?
冷静な自分の声は聞こえていた。けれど黄瀬の勢いにつられるまま、火神はつい頷いてしまっていた。


バスケを始めて一ヶ月。今は正に、蜜月だった。
バスケが楽しくて仕方ない。部活だけでは全然足りなくて、一人ストリートコートに繰り出した。それが、間違いだった。
「おら、下手くそなバスケしてんじゃねーよ」
馬鹿にした笑みと共にしっしっと追い払われる。そんな理不尽な扱いを受けても、立ち向かうという選択肢は生まれなかった。
絡んできたのはガラの悪い5人組の男だった。バスケでも、場外乱闘でも勝てる見込みなど無い。
仕方ない。今日は運が悪かったと大人しく引き下がろうとした、その時だった。
「ちょーっと待ったー!」
突然割り込んで来た声は正に、天の助けだった。
同時に振り向いた自分とチンピラたちは、同時に固まった。
そこにいたのは何故かフルフェイスのメットを被った、怪しくもカラフルな3人組だった。
「…な…何者だ、お前ら」
勇気あるチンピラの一人がこの場を代表して疑問を投げ掛ける。すると黄色の人が笑ったのが、雰囲気で分かった。
「名乗るほどのものではないが、教えてあげよう。―――俺は、愛と勇気のチャライエロー!」
「キレとコクの無糖ブラック!」
「………え?なにそのキャッチフレーズ。いや、そんな見られても俺はなんも用意してねぇよ。」
「ちょっとー、なにしてんスかレッド」
「キャッチフレーズは常識ですよ、レッド」
「どこの常識だよ!カルチャーショックか!レッド言うな!」
「…結局なんなんだ、お前ら…」
なんだか圧倒されているチンピラの問いに、黄色い人はあっさりと答えた。
「まあアレっすね。バスケの妖精的な?」
「そんなでかい妖精がいてたまるか!」
「世界平和を守る第一歩として、関東圏内のストリートコートの平和を守ります」
「範囲せめぇな!」
チンピラの突っ込みがいちいち的確すぎて、どちらに味方したら良いのか分からなくなる。
このままだと埒があかないと判断したのか、チンピラの一人が取り落としていたバスケットボールを拾い上げた。
「妖精っつーならバスケできんだろ?ストリートコートならバスケで勝ぶはぁっ!!」
言い終わる前に、黄色い人の拳がチンピラを数メートル吹っ飛ばした。
「なにしとんじゃー!!」
チンピラと赤い人が同時に叫ぶ。
黄色い人は己の手のひらに拳を押し当てた。
「口で言っても分からない奴には拳で語るっス」
「口で言ってねーよ!」
赤い人の正論に、やだなぁと黄色い人が笑う声がメットの奥から聞こえた。
「なんのために名前と顔を隠してると思ってんスか」
「犯罪を隠蔽するためとは思ってねーよ!」
唯一の常識人らしい赤い人は、頭を抱えて踞る。
「どうすんだコレ。どうなんだコレ」
「大丈夫ですよ」
全く動じることのない黒い人が、赤い人の肩にそっと手を置く。
「金と権力で揉み消します」
「え?ブラックってそういうブラック?」
赤と黒がごちゃごちゃやっている横で、黄色い危険人物の一人無双は続く。それは正に、DF不可能な殴り屋だった。
ばったばったと倒れていくチンピラたちの横で自分に出来ることは、全力で逃げる準備をすることだけだった。


「初めてだし、まずはこんなもんスかね」
笑顔だけは爽やかに、黄瀬が言う。なにかをしたわけでもないのに燃え尽きた火神は、声すら発することがなかった。
「でもやっぱり、正義の味方は3人よりも5人組が良いと思うんスよね」
無視は出来ない台詞に火神はぴくりと反応する。もちろん、思うことは一つだった。
―――逃げろ、関東のキセキたち!


fin 2013/5/24

ページ内に書ききれなかったので、フリリク内容と言い訳は次ページです。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ