■おかしなノリの話

□愛、減量中
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「はい」
登校するなり机の上に置かれた箱に、青峰の頭の中はいくつもの「なんで」で埋まった。
なんで自分なのか。そして―――。
青峰は、今日の主役とも言うべきカカオの木泣かせの友人を見上げた。
―――なんで、お前なのか。
「…なんか、変じゃね?」
「ああ、そっか。そうっスね」
やりきれない思いを伝えれば、黄瀬は納得した顔で頷く。
「ちょっと待ってて」
もう一度箱を手にして、黄瀬は教室を出て行く。カラカラと静かに閉まったドアは、間髪入れずにガラリ!と盛大な音を立てて開いた。
「青峰センパイ!」
再度教室に入った黄瀬は初々しく頬を染め、恥じらいに目を伏せて、握った片手を口元に当てた。
「あの、これ、一生懸命作ったんです。もらってくださいっ」
「渡し方について言ったんじゃねぇよ!なんで後輩キャラなんだよ!」
怒鳴る青峰に回りの視線が突き刺さる。殺伐とした空気の中、チョコを構えて隙を窺う女子たちの姿がちらつく。
「…頼むから、これ以上無駄に目立たないでくれ」
「いいんスよ。それが狙いなんだから」
意味の分からないことを言って、黄瀬は改めて青峰に箱を渡す。
「開けて」
「今?」
「今」
片手サイズの箱は、必要最低限だけ包装されている。紙を外して蓋を取った箱の中身は。
「…なにこれ」
「オペラ」
あまり聞き慣れない名前がついたそれは、芸術品のようなケーキだった。
「知ってる?これ、等しく何層も重ねるの、すっごい大変なんスよ」
青峰がそんなことを知るわけがないが、黄瀬が大変だというのなら相当なのだろう。
それでも同じ薄さでクリームとスポンジを積み上げたケーキは、さすがとしか言いようがなかった。
「見た目を堪能したなら食べて」
「今?」
「今」
すっと黄瀬がフォークを差し出す。
「食べた後のリアクションは、できるだけオーバーによろしく」
「グルメ番組か」
やらせに乗る気はない。
青峰はフォークを受け取ると、つい躊躇うほど美しい長方形に切られたケーキを切り取った。
一口分を口に運ぶ。すぐに甘さを控えたチョコとクリームが溶け、仄かにコーヒーのビターな薫りがする。
特に甘いものが好きなわけではないけれど。
「…超うまい」
フォークを持ったまま呟けば、がばっと黄瀬が抱きついた。
「ありがとう!愛してる!」
熱烈な叫びを残して、黄瀬はすぐに教室から出て行った。
だが青峰は、黄瀬が離れる寸前に落とした独り言を捕らえた。
―――よし、次だ。
「…次?」
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