■おかしなノリの話

□終わりなき戦い 2
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誰もいない体育館に、ドリブル音が響く。
黒子はフリースローラインに立つと、滑らかな動きでシュートを放った。
ボールは重力のままにほとんど上に上がることなく、床に落ちる。
テーン、と空虚な音がした。
「…よし」


終わりなき戦い 2


シュートが入らないから、からかわれるのだ。
ゴールを決めさえすれば、きっとこの悪夢から解放される。
「それで、どうして俺なのだよ」
「シュートといえば緑間くん、緑間くんといえばシュートじゃないですか」
「悪気がなければ何を言っても許されると思うなよ」
緑間は小さく息を吐いた。
「…でもまぁ、協力してやらんこともない」
「良いんですか?」
自分から言っておいて何だが、こんなにあっさり許容してくれるとは思わなかった。
「俺も、少々悪ふざけが過ぎると思っていたのだよ。見返してやりたいのだろう?」
黒子は深く頷いた。
「だが、やるからには厳しくいくぞ」
「分かりました。師匠と呼ばせてもらいます」
「やめるのだよ」
強力な助っ人を得て、黒子の反撃がはじまった。


桃井が不在な日は分かっていた。
だからおそらく今日が、一矢報いる日になるだろう。
黒子は人知れず、朝から闘志を燃やしていた。
「10分休憩ー」
安息を告げるはずの合図が、黒子には開戦のゴングに聞こえた。
「テツ」
予想通り、青峰が黒子にボールを持たせる。
現実でもイメージの中でも数え切れないくらいゴールに放ってきたボールは、体の一部のように手に馴染んだ。
緑間を仰ぎ見る。視線だけの頷きが返る。
鞄には実用を兼ねた今日のラッキーアイテム、「熊避けベル」。
―――いける。
黒子は柔らかく膝を折り、跳んだ。指先にまで神経を集中させ、丁寧にボールを投げる。
帝光のエースシューターを彷彿させる完璧なシュートフォームだった。
黒子の手を離れたボールは、美しい弧を描いてゴールへと近付き―――リングを掠めて落ちた。
「………」
体育館には転がるボールの音だけが響く。
静寂を破ったのは、黒子だった。
「…師匠…!」
達成感に満ち満ちた表情で振り返った黒子は、ガッツポーズで緑間を見た。
緑間は感動に震えながら同じように拳を握る。
「…いやいやいやいや!何かやってやった感じになってるっスけど、やってないっスよね!?入ってないっスよね!?掠めただけっスよね!?」
「これが黒子の限界なのだよ」
狙いが悪いわけでもフォームが悪いわけでもなく、黒子には単純に体格と筋力が足りないのだ。
騒ぐ黄瀬には目もくれず、黒子は自分の鞄を掴むと緑間に歩み寄った。
「師匠、お世話になりました」
「…ああ、良くやった」
労いの言葉を胸に、黒子は出口へと歩を進める。
「黒子っち…?どこ行くんスか?」
「山に籠ります」
「駄目えぇ!!」
黄瀬は慌てて黒子の腕を掴む。
「止めないでください。そして探さないでください」
「無茶苦茶っス!!」
押し問答する二人の間で、熊避けベルが抗議するように鳴った。

黒子の戦いは続く。


fin? 2012/10/16

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