■青峰×テツナ

□目隠し
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報われない想いの辛さは分かっていた。
どんなに焦がれたって手に入らないものがこの世にはある。
自分に出来ることはきっと一時の慰めだけで。そんなことをすれば自分の首を締めるということも、分かっていた。
それでも、一人で泣かせるよりは、いいと思った。


目隠し


黄瀬に彼女ができた、という噂が流れたのはいつ頃からだったか、はっきりと覚えてはいない。
けれど黒子がぼんやりすることが多くなったのも、ちょうど同じ頃だった。
青峰は、足を投げ出して座っている黒子の隣に腰を下ろした。
「存在が薄くなってんぞ」
「…放っておいてください。元からです」
まだ悪態をつく元気はあるらしい。
バスケ部の練習を見ているはずの目に覇気はないけれど。
「黄瀬、に」
放り出された黒子の手が、ぴくりと反応する。
「直接聞けばいいだろ。気になるならよ」
長い間がある。人が走り回っているはずの体育館を静かだと感じる。
静寂を、小さな声が破った。
「…聞けませんよ」
自嘲が黒子の唇を僅かに歪ませた。
「噂が本当だったら、きっとその場で死んでしまいますから」
シュートを決めたらしい黄瀬が、遠くで笑う。その様子を眺めながら、青峰は分からないようため息を吐いた。
好きな人の心が自分にないことを知るのは辛い。それはよく分かる。
―――俺も今、死にそうだ。


ガッという音と共に、ボールがリングに弾かれる。
とうに日は暮れ、辺りは暗い。さすがにそろそろ限界だろう。
青峰は一人残っていた体育館を後にし、部室に戻った。
飲み物を置いて、電気を点けて、叫び出しそうになる。
「おまっ…!…なにやってんだよ」
部屋の真ん中には蹲る黒子がいた。眩しいのか、俯いた顔を水色の髪が覆う。
「…ちょっと…一人になりたくて」
思わずため息が出る。
所詮は似た者同士なのだ。青峰も無心になりたくてこんな時間までボールを追いかけていた。
「…着替えますよね。すみません。帰ります」
立ち上がり出口へ向かう黒子の腕を、つい掴んでいた。すれ違い様に一瞬だけ見えてしまった。黒子の目は、痛みに濡れた色をしていた。
「…慰めて、やろうか」
黒子が一人で泣くから。暗い部屋で小さくなって、声を殺して泣くから。
堪らなくなった。
「青峰く…」
口を塞ぐ。なにが起きたのか分かっていない体を抱いて、強く唇を押し付ける。
青峰が顔を離しても、黒子は静かに瞬くだけだった。
撥ね付ければ良いのに。突き飛ばして怒って、そうすればまだ冗談にできたのに。
黒子はゆっくりと、青峰のシャツの裾を握った。
誰でも良いからすがらずにはいられないのか。
青峰は黒子の弱さを思い、今度は優しくキスをした。
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