■青峰×テツナ

□一度だけの幸運
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その幸運を手に入れたのは偶然だった。


一度だけの幸運


体育館を出た青峰の目の端に、違和感が映った。
ほとんど野生の勘で、違和感を追う。
夕方を過ぎ、あたりは薄暗い。それでも青峰は、不審者を物陰に追い込んだ。
「なにやってんだ、テメー」
学校関係者ではない。おそらく雑誌記者とかその辺だろうと当たりをつけ、青峰は無言で怪しい男の持ち物を漁った。
「あ…それは…」
萎縮する男から奪ったのは、小型のデジカメだった。
データを確認し、数枚黄瀬の写真を見つける。
屋外の喫煙所で煙草の火を消す姿。
大方、ランニング中に火が点いたままの煙草を発見して、変なところが真面目な馬鹿が、わざわざ火を消した、ただそれだけの写真だった。
しかし、それを悪意を持って解釈する人間もたくさんいる。
ちっ、と青峰は苛立ちを面に出した。
「とっとと失せろ」
地を這う声に怯えきった男は、足を縺れさせながら慌てて逃げ出す。
「あの馬鹿が…」
手元に残ったデジカメからデータを削除しようと操作した指が、最後のボタンを押す直前で止まった。
―――本当に、この写真には消す以外に使い道はないのか。
悪魔の囁きに、青峰の口角が上がった。
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