黄瀬×テツナ(中学時代)

□幸福の代償
1ページ/2ページ

黒子はため息を吐いた。
机から取り出したノートは切り裂かれている。
犯人は探すまでもなく、校内の黄瀬のファンだと分かっていた。
嫌がらせは今までも何度かあった。バスケ部のマネージャーとして、黄瀬の近くにいる自分が目障りなのだろう。そしてきっと、桃井を敵に回すほどの勇気はないのだ。
別に、構わない。
黄瀬との距離感に少し気を付けなければいけないと自覚した。ただそれだけのことだった。


幸福の代償


あまり自分は怒る方ではない、と黒子は思っていた。
馬鹿な黄瀬に感情をぶつけることはあるが、本気ではない。
そんな自分が、心から怒っていた。
机の上には糸の切れたシロイルカのストラップがある。
黄瀬とはじめての旅行に行ったときに買った、大切な思い出の品だった。
自分には何をされようが構わない。
でも、黄瀬との思い出に手を出されるのは許せなかった。
黒子は周りを見回して黄瀬の姿がないことを確かめると、教室を出た。
廊下の端で嫌がらせの犯人を見つける。3人で固まっている女の子にはっきりと告げる。
「八つ当たりはやめてもらえますか」
顔を見合わせた女の子たちが笑って黒子の腕を引く。
人気のないところに連れてこられても、黒子は揺らぐことなく相手を見据えた。


「黒子っち…具合悪い?」
黄瀬に覗きこまれて、黒子は肩を跳ねさせた。
バスケ部の練習を見ているつもりが、別のことに気を取られていた。
「ずっとお腹押さえてない?」
言いながら黄瀬が自分の腹部に手を当ててみせる。
黒子は無意識に脇腹を押さえていた手を下ろした。
「…何でもないですよ」
否定しても黄瀬は腑に落ちない表情をする。
「くろ…」
「桃井さんが呼んでます」
追求を避ける。不自然だったかもしれないが練習中に黒子のところに長居はできず、黄瀬は踵を返す。
黒子は安堵の息を吐き、壁に寄りかかって座った。
「…大丈夫か?」
今度は青峰から声がかかる。
「…なんとか」
青峰には、本音で返す。
事情を知っている青峰は、軽く黒子の髪をかき回した。
多少は覚悟していたつもりだったが、まさかここまで手酷くやられるとは思っていなかった。
今、黒子の服の下には幾つもの痣が刻まれている。
屋上で酷い暴行を受けていた黒子を助けてくれたのが、たまたまそこにいた青峰だった。
激昂して黄瀬に訴えに行こうとした青峰を、黒子が止めた。
黄瀬にだけは、話せるはずがなかった。
黒子が自らの過失で怪我をしたときでさえ、黄瀬はあれほどまでに自分を責めたのだから。
「…隠し通せるとは思えねぇけどな」
そんなことは黒子にも分かっていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ