黄瀬×テツナ(中学時代)

□彼の信頼度
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「テツ…」
酷く深刻そうな顔をした青峰に呼ばれて、黒子は顔を上げた。
「最近黄瀬とは上手くいってるのか?」
「え?」
「黄瀬に…おかしなところはないか?」
「黄瀬くんはいつもおかしいです。…なんなんですか?」
青峰は言いにくそうに長く躊躇い、やがて言った。
「黄瀬と、別れろ」


彼の信頼度


「きーちゃんの浮気者!」
涙ながらに罵られて、黄瀬は唖然と動きを止めた。
「色んなスポーツをとっかえひっかえしてきたノリで、色んな女の子をとっかえひっかえするつもりなの!?ノリノリなの!?」
「いや、あの…桃っち…?」
ハッと黄瀬は回りを見渡す。ここはクラス前の廊下で。桃井は泣いていて。
この状況はまずい。非常に、まずい。
「桃っち、とりあえず部室にでも行こうか…?」
「そうやって何人も女の子を連れ込んだの!?きーちゃん最て…むぐぐ」
騒ぐ桃井の口を塞ぐという強行手段に出て、黄瀬は部室に逃げ込んだ。


「で、どういうことか説明しろ」
「説明して欲しいのはこっちっスよ…」
部室には当事者4人、黄瀬、黒子、青峰、桃井が集まり、ピリピリした空気を作っていた。
いまいち状況を掴めていないが、一応黒子は黄瀬に問う。
「黄瀬くん、浮気したんですか?」
「してないっスよ!」
黒子は困った顔で青峰を仰ぎ見た。
「してないって言ってます…」
そんな黒子を桃井が抱き締める。
「浮気した男はしてないって言うの!酔ってないって言う人ほど酔ってるのと同じなの!」
「こんなに純真なテツを弄ぶなんて…お前は最低だ」
「弄んでないっスよ!」
青峰と桃井は黄瀬を責めるばかりで話は全然進まない。
黒子は桃井の腕から顔を出すと、現状の整理に努めた。
「どうして黄瀬くんに浮気疑惑がかかったんですか?」
「…俺が、見ちまったんだ…」
青峰が深く深く嘆く。
「黄瀬が手帳に別の女の写真を挟んでいるのを…!」
「…それって…」
黒子はゆっくりと黄瀬を見る。黄瀬はゆっくりと視線を逸らす。
黒子の目が冷たいのは、決して浮気を責めているからではなかった。
「黄瀬くん…」
「………ハイ」
「私はあれほど言いましたよね…?」
「…ゴメンナサイ」
粛々と怒られる黄瀬を見て、桃井が首を傾げる。
「結局、写真は誰なの?」
「黒子っちっス」
「え?」
「私です」
「ええ?」
いやいやいやいやと顔を見合わせて笑う青峰と桃井に、黄瀬はため息を吐いた。


「マジかよ…すげー…」
まじまじと青峰の視線に晒されて、黒子はたまらず俯いた。
「特殊メイクか」
すぱーん、と桃井の手刀が青峰の後頭部に炸裂する。
今の黒子には黄瀬の手によりメイクが施されていた。さすがに道具を持ち歩いてはいなかったので、桃井のものを借りた簡易なものだったが。
「でも本当、すごい。さすが、きーちゃんはテツナちゃんの魅せ方を良く分かってる」
「誤解はとけたっスか」
黄瀬が手の中でグロスを回す。
青峰と桃井は口を揃えて謝った。
「スミマセンデシター」
「うわ、なんスかその態度!」
「いいからメイク落としてください」
「そのままでいいだろ。俺とデートしようぜ」
「どさくさに紛れてなに誘ってるんスか青峰っち!」
誤解がとけてもとけなくても騒がしい状況に、黒子はため息を吐いた。


「なんだか騒がしい一日でしたね…」
黄瀬と一緒に帰りながら黒子が呟く。
「そうっスね。…黒子っち」
呼んで、黄瀬が足を止める。
倣って黒子も立ち止まり、黄瀬を見上げる。
「信じてくれてありがとう」
眩しいものを見るように、黄瀬が目を細める。
「他の誰に何を言われようと平気だけど、黒子っちに疑われるのは…キツいっス」
一束分だけ黄瀬が黒子の髪を撫でる。
「…本当は、少しだけ疑いました」
「なんと」
黄瀬はいつだって人に囲まれている。たくさんの人に慕われている。
少しでも油断をしたならば、その手は簡単に離れていくのだろう。
「しないっスよ。浮気なんて」
気持ちを読んだかのように黄瀬が指を絡める。
「だから、黒子っちも俺だけ見ていて」
黒子は返事の代わりに、強く黄瀬の手を握った。


こうして騒がしい一日は終わったと思われたが、明日からは「桃井が黄瀬に捨てられた」という噂を消すための日々がはじまることを、今の二人はまだ知らなかった。


fin 2012/10/30

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