黄瀬×テツナ(中学時代)

□完全無欠の彼氏
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帝光中学バスケ部は、合宿にて最大の試練にぶつかっていた。
「飯、どうする?」


完全無欠の彼氏


はい、と桃井が手を挙げる。
「私に任せて」
「任せられるか」
提案とほぼ同時に青峰がばっさり切り捨てる。
むくれる桃井は放置して、流れは自然ともう一人のマネージャーに向かった。
黒子は重々しく頷いた。
「分かりました。ゆでたま―――」
「うちの部にマネージャーはいないものと思え」
こうなれば選手の誰かが作るしかない。しかし作れる作れないの前に、作りたくない。
全員限界まで疲れていた。
「…問題ないよ」
重い空気を、赤司が破った。
「テツナがいれば、ね」


一度部屋に戻っていたらメンバーとはぐれてしまった。
黄瀬はふらふらと廊下を歩いていた。
疲れた。早くご飯を食べて寝てしまいたい。
そう思ってふと考える。
食事は、誰が作ることになっていたか。
「黄瀬くん」
ぱたぱたと黒子が向かいから走ってくる。
「黒子っちー。みんなはどこにいるんスかね」
問いには答えず、黒子は黄瀬の腕を引く。
「ついてきてください」
黒子に導かれるままたどり着いたのは調理場だった。
そこに他のメンバーの姿を見つけ、結局食事は全員で作ることになったのかと納得する。
だが、違った。
「頑張れ、黄瀬」
良い笑顔で青峰がテレビの電源をつける。今日の献立がなんちゃら〜とかいう番組が流れる。
「え…もしかして模倣っスか…?」
メンバーの目は期待に輝いている。心苦しいが、黄瀬は首を振った。
「いや、さすがに今日は無理っス。疲れたっスよ」
「テツナ」
赤司が黒子を見る。黒子は黄瀬へと、視線をリレーさせた。
「黄瀬くん」
黄瀬の服の裾を掴み、上目遣いで小首を傾げる。
「お腹がすきました。美味しいご飯が食べたいナー」
もしもキセキの世代の能力発動の瞬間が明確に分かるのなら、まさに今、黄瀬は能力を発動させた。
鬼気迫る勢いでテレビと向き合う。
「…あの、でも、無理はしないでくださいね…」
「黒子っちに美味しいものを食べさせられなくて、何のための模倣能力っスか…!」
黄瀬の意志は強く、熱い。
「こうなりゃ後は大丈夫だろ。風呂でも行こうぜ」
ぞろぞろとメンバーが調理場から出ていく。黄瀬ただ一人を残して。
「テツナちゃーん。行くよー?」
桃井の呼ぶ声がする。
黒子はメンバーと黄瀬を交互に見た。
いいのかな。いいのかな。
迷ったけれど、答えはすぐに出た。
―――ま、いいか。


風呂から上がる頃には調理場は天国と地獄を体現した世界になっていた。
ところ狭しと盛り付けにまで精を尽くした食事がテーブルを飾る。
そしてその近くの椅子の上では、優秀な料理人が精も根も尽き果て、倒れていた。
「黄瀬、お疲れ」
青峰の労いに、黄瀬は弱々しく片手を上げて応える。
一番の貢献人を除いて、食事がはじまった。
「あ…」
美味しい。見かけだけでなく、味付けまで完璧だった。
料理はどんどん姿を消していく。
黒子はお皿を持ったまま、黄瀬の傍に行った。
「黄瀬くん…」
灰になるんじゃないかと心配になるほど真っ白になった黄瀬が、ゆっくり目を開いた。
「…黒子っち、どうっスか…?」
「ありがとうございます。美味しいです」
「…そっか。なら…いいっス…」
開いた時と同じ勢いで黄瀬が目を閉じようとする。その前に、黒子はスプーンを差し出した。
「はい」
意図が分かっていない黄瀬に、あーん、と自分の口を開けて意思表示をする。
黄瀬の目に、命の輝きが戻った。
「黒子っちー!」
抱きつく黄瀬の頭を撫でながら。
ちょろいな、なんて、自分だけは考えてはいけないと、黒子は己を戒めた。


fin 2012/10/28

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