黄瀬×テツナ(中学時代)

□彼の愛しい着せ替え人形
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一目惚れは突然だ。
黄瀬は撮影の合間に立ち寄った店で動けなくなった。
視線は目の前の服に釘つけになる。
その実頭の中は、可愛い恋人のことでいっぱいだった。


彼の愛しい着せ替え人形


「―――で、買っちゃった」
じゃーん、と黄瀬が取り出したワンピースに一瞥だけくれて、黒子は手元の文庫本に目を戻した。
「いいんじゃないですか。似合うと思いますよ。黄瀬くんに」
「入らないっスよ!いや、そういう問題でもないけど」
どうしても会いたいと言われたからわざわざ駅で待っていてあげたのに、会って早々黄瀬のテンションはおかしい。
「見てこのシンプルだけど洗練されたフォルム。モヘアニットで手触りも良いし、さりげないバックリボンはシフォン素材で、ミニワンピとしてもチュニックとしても着れるお買得な一品っス」
「すみません。なに言ってるのか全然分かりません」
なにがこんなに彼を熱くさせるのか。ファッションにはさっぱり興味のない黒子には分からない。
「とりあえず受け取って!そして着て見せて」
黒子は嫌々ワンピースに目をやった。
ブランドには疎いけれども、相当高い服だろうということは容易に想像できる。
「…そんなもの貰えません」
一体彼は自分にいくら貢ぐつもりなのか。
黒子が突っぱねても、黄瀬は全く動じない。
「タダであげる訳ではないっス」
やたら良い笑顔で告げる黄瀬に、迎えになんか来なければ良かったと、黒子は後悔した。


黒子が黄瀬の前に姿を現すと、黄瀬は感涙に咽び泣いた。
「完璧っス…っ!」
黒子は履き慣れない靴にふらつき、壁に手を付いてため息を吐いた。
メイクと髪のセットを施された後、紙袋を手渡された。ワンピースだけにしては大きな袋だと思っていたが、中には膝上丈のブーツが入っていた。
トータルコーディネートかと、彼の抜かりのなさには呆れを通り越して感心する。
「で、ここはどこですか?」
「撮影倉庫っスね」
とか言われても良く分からない。
黒子には生活感のない、だだっ広い部屋にしか見えなかった。
「なんでわざわざこんな所に?」
「どうせなら本格的にやろうと思って。家でやるには狭いし、公共の場でやろうものならきっと黒子っちが誘拐されちゃうし」
可愛いから、と黄瀬が力説する。
モデルごっこしよう、が黄瀬の出した条件だった。
断っても良かったのだが、モデルをやらされる面倒くささよりも、断った後の黄瀬をフォローする面倒くささが勝った。
加えて、黄瀬に顔や髪を弄られるのは黒子も嫌いではなかった。
「…黄瀬くんは写真が好きですよね」
「可愛いものが好きっス。ひいては黒子っちが好きっス」
カメラのシャッターをきり、黄瀬は付け足した。
「写真は撮るのも撮られるのも好きっスけどね」
さすがはモデル、と思う。
「黒子っちは?いつも写真撮らせてくれるけど、良いの?」
「黄瀬くんが個人の趣味の範疇で、用法を守って正しく使用してくれる分には構いませんよ」
「引き延ばして壁に貼るのは?」
「不正使用です」
黄瀬の指示に従い、簡単なポーズをとる。
「黒子っち、可愛い」
何度も黄瀬は言うけれど、その全てが本心からだと分かっているから、くすぐったくなる。
「こっち見て」
カメラ越しに黄瀬を振り仰ぐ。
黒子が照れてはにかむと、黄瀬はカメラを下ろした。
「黒子っち…ホント、可愛い」
柔らかく抱き締められる。頭の上にキスが落ちる。
「黄瀬くん…?」
顔を上げればキスは唇に。
何度か唇を重ね直しながら、黄瀬が体重をかけてくる。
座って床に手をつくと、黒子は首を振ってキスから逃れた。
「…っ…駄目、です…」
「嫌?」
訊きながら黄瀬が首に口付ける。
「服が汚れる…から…っ」
黄瀬が笑い声をあげた。
「…じゃあ、俺の上においで」
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