黄瀬×テツナ(中学時代)

□Call 〜side A
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寂しいな、と黒子は呟いた。


Call 〜side A


随分と黄瀬に会っていない気がする。
元々、学生でモデルでバスケ部エースという華やかな肩書きを持つ彼は多忙だ。
しかし最近は大きな撮影が入ったらしく、それに輪をかけて超過密スケジュールとなっていた。
たまに学校で顔を合わせても、人気者の彼はいつだって人に囲まれていて、会話なんてできるはずがない。
黒子はベッドに寄りかかり、膝の上の携帯を見た。
これが、今の二人を繋ぐ唯一の絆だった。
「メールも、できないのかな…」
携帯に寄り添うシロイルカに問う。
シロイルカは首を傾げて黒子を見上げている。
黒子は長いため息を吐き、ベッドに顔を伏せた。
その時、携帯が震えた。
自分の人生でもそうはないだろう、という反射速度で発信者を確認する。恋人の名前を認める。通話ボタンを押す。
「はい…!」
「…早いっスね」
笑い声が耳をくすぐる。
「休憩ですか?」
「うん。これからご飯」
黒子は時計を見上げた。時計は夜10時過ぎを指している。
「太りますね」
「…年頃の男の子にそんなこと言うもんじゃないっス」
大変だな、と思う。
食事も摂れないくらい働いて、働いて。それでも僅かな隙を見つけては、黄瀬は黒子に連絡をくれた。
電話から聞こえる声はいつだって優しい。弱音一つ吐かない黄瀬は、格好良い。
「…じゃあ、体に気を付けて。頑張ってください」
惜しいけれど、これ以上貴重な時間をもらうのは忍びない。
短いやり取りをいくつか交わして、黒子は別れの言葉を口にした。
「うん。寝る前にメールして。そしたらもう電話しないようにするから」
「はい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
通話が切れる。
黒子はベッドに倒れた。携帯を大事に胸に抱く。
黄瀬にはそう言ったけれど、今夜自分はこうやって、携帯を抱いたまま眠るのだろう。
例え、寝起きの声を黄瀬に笑われることが分かっていたとしても。


fin 2012/10/22

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