黄瀬×テツナ(高校時代)

□空の色
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似合わないな、と黒子は思った。
鏡には真新しい制服に身を包んだ自分が映る。
新しい気持ちになんかなれず、ずっと治りかけの傷を弄くり回すような今の自分には、酷く不似合いだった。
億劫な動きで携帯を鞄にしまう。ストラップを外された携帯は軽く、寂しそうだった。
机の上に鎮座するシロイルカたちを指で撫でる。
黄瀬からもらったものは目に触れないようにしまい込んだのだが、これだけはどうしてもできず、手元に残してしまった。
「…行ってきます」
誰にともなく告げ、黒子は部屋を出た。


空の色


バスケに関わる気はなかった。
関わってしまえば彼らとの接触は間違いなく避けられない。
彼らのバスケには何が足りないのか、はっきりした答えが見つからない逃げ出したときのままの自分では、まだ彼らと会うことは出来ない。
…というのは言い訳かもしれない。
ただ単純に自分は彼に会うのが怖いのだ。会って、突き放されるのが耐え難いのだ。
だからバスケとは関われない。
それでも心に反して、足は多数の部活勧誘をすり抜けて、一ヵ所へと向かっていた。


3年間キセキの世代を間近で見てきたという実績は、高く評価された。
「気付いたことがあったらどんどん言ってね!」
明るく頼りになる監督、仲の良い部員。誠凛は良いチームだと思った。
ここでやれることがあることが嬉しかった。
そしてもう一つ、誠凛には火神がいた。
まだ荒削りではあるが、黒子は火神のプレイに光を見た。
彼はいつかきっと、キセキに対抗する力をつける。


ストリートコートで活き活きと動き回る火神を見守る。
「…なんか違う気がする」
ゴールを決めるが首を傾げる火神に、つい教育係の気持ちになる。
「踏み切りのタイミングじゃないですか?」
「そうか?」
素直な火神に思わず笑みが浮かぶ。
誰かとは大違いだ、とか考えてしまい、黒子は痛む胸を押さえた。
火神が飛ぶ。高く力強い跳躍が眩しい。強い光に目を細めると、火神に過去のイメージが重なった。
文句のつけようがない満点のゴールを決めて、振り返る。
―――どうだったっスか?
いつだって鮮明に思い出せる。
喜びを全面に溢れさせた笑顔。自分を呼ぶ弾んだ声。
―――黒子っち。
「黒子!」
火神の声に我に返る。
「なにぼーっとしてんだよ」
「…火神くんはもっと足腰を鍛えた方がいいです。帰ります」
「え?おい、なんだよいきなり」
驚く火神を放置して黒子は鞄を手にして立ち上がる。
―――胸が熱い。
泣きそうなくらいバスケが好きだった。
バスケがあったからこそ、自分は彼に出会えたのだ。
「黒子!」
火神が自分を呼ぶ声がするが、振り返らない。振り返れない。


見上げた空は、滲んで揺れた。


fin 2012/11/09

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