黄瀬×テツナ(高校時代)

□保存可能
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『もう暫くお仕事です。先に寝ていてください。おやすみなさい。』
黄瀬からメールが入ったのはそろそろ電話が来る頃かと待ち構えていた夜10時過ぎのことだった。
声が聞きたい、メールを打つ暇があるなら少しでもたくさん話したい、と訴える彼からメールが来るのは珍しい。
黒子は少し迷って返信はせずに、電話番号を選んで発信ボタンを押した。
待ってみても聞こえるのは呼び出し音のみで、黄瀬が出る気配はない。諦めて発信をキャンセルすると、ほぼ同時に新着メールが届いた。
『ごめん。今、電話出られない』
移動中だったらそういうこともあるのだろう。
黒子は納得してメールに返信した。
『分かりました。おやすみなさい』


保存可能


翌日、昨夜よりちょっと早い夜9時過ぎに、黄瀬から短いメールが届いた。
『寝ます。おやすみなさい』
なんでメールだと事務口調なのか。疑問に思いつつも黒子は更に短いメールを返した。
『おやすみなさい』


翌日の夕方、HRが終わると黒子は黄瀬にメールを送った。
『私に言いたいことはないですか?』
間髪入れずに返信がある。
『愛しています』
黒子は携帯を操作し、応酬した。
『先ほどのメールは保存しました』
『恥ずかしいです』
『黄瀬くんが素直じゃないからです』
短時間でのやり取りに間ができる。
迷うような時間があって、黄瀬からメールが届いた。
『たすけてください』
黒子は携帯をしまうと席を立った。


「…寝ていて、良いんですよ…?」
黒子の手の中で、合鍵が所在無さげに項垂れた。
ドアを開けてくれた黄瀬は黒子でも倒せそうなくらい弱っていた。
顔や目は赤く、マスクの下からは荒い呼吸の音がする。
ぐったりと、抱き締めるというよりは倒れかかる黄瀬に、黒子は焦った。
「倒れないでくださいね。私一人では運べません」
触れた体は火傷しそうなくらい熱い。
黒子は引きずるように黄瀬をベッドまで誘導した。


黄瀬を寝かせて一息ついて、黒子は改めて部屋の惨状の感想を口にした。
「うわー…」
これが彼の言っていた「お見せ出来ない状態」なのだろう。
以前招待してもらったときとはかけ離れた、荒廃した部屋がそこにはあった。
ごめんなさい。声の代わりに黄瀬の目が語る。
黒子は黄瀬の頭を撫でた。
「良いんですよ。忙しかったんですね。黄瀬くんは良く頑張りました」
よしよし、と慰めると黄瀬が泣きそうになる。相当参っているなと実感する。
「じゃあちょっと部屋を片付けて、何か作―――」
立ち上がりかけた黒子の手を、熱い手が掴む。行かないでと訴える。
「―――るのは、もう少し後でも良いですよね」
途端に嬉しそうな顔をする黄瀬に、つい笑みが浮かぶ。
参っているのは、自分も同じだ。相当彼に参っている。
彼が寝付く間くらい、傍にいても良いだろう。


ふわりと肩に落ちた柔らかい感触で目が覚める。
突っ伏していたベッドから顔を上げると、上体を起こした黄瀬と目が合った。
「黒子っち」
マスクが消えた彼の口は、綺麗な音で黒子を呼ぶ。
「…もう大丈夫なんですか?」
「うん。何も食べてないから薬飲めなくて困ってたんスよ」
枕元の棚の上にはお粥が入っていた器が残る。昨日の黒子の努力の結晶だった。
部屋の惨状は残念ながらあまり変わらなかった。一人で戦える相手ではなかった。
「本当、助かった。黒子っちのおかげっス」
黒子がベッドの上に引き上げられると、肩にかかった黄瀬の上着が落ちた。ほぼ平温に戻った体に抱き止められる。
「ありがとう。大好き」
甘い言葉が耳をくすぐる。
黒子はそっと黄瀬の喉に触れた。
「…声、出るようになったんですね」
「え…。なんでちょっと残念そうなんスか」
答えずに黄瀬の胸に顔を埋める。
黒子の携帯には、おそらく一生消されることのないメールが残る。
保存できる愛というのも、たまには悪くない。


fin 2012/11/21

フリリク
『お仕事を頑張りすぎて風邪をひいちゃった黄瀬君を看病するテツナちゃんのお話』
でした。
…看病シーンまるっと抜けてる上にメールがテーマになってる気がします…。
すみません。中途半端ですみません。機会があればリベンジします。
リクエストありがとうございました!

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