*長編*

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「随分と忙しそうじゃけど、怪我とかは、して無いんね?」

「えぇ、お二人とも元気にしております。」

まぁ、多少疲労の色は見えてはいますが、ということは、雅を、また心配させてしまうので伏せて話す

「あぁ、そうだ」

思い出したように柳生が声を上げ

「昨日、飛脚が見えて、雅さんに贈り物を頼まれているんです。」

「贈り物?」

雅は首をかしげ

「はい、コレを」

淡い紫の風呂敷に包まれた大きめな木箱を雅の前に差し出す
その風呂敷の結び目には櫻の簪が刺してあった

「櫻…亜久津さん?」

「そうでしょうね、こちらも一緒に届きましたから」

と、一封の書簡を渡す
 雅は受け取り、書簡の中を確認する

「ぁ、これは千石さんじゃね」

「はい。 贈り物、中を広げてみてはいかがです?」

「そうじゃな」

口元に笑みを浮かべながら風呂敷を解いていき、中の木箱をゆっくりと開けると、そこには

「綺麗…」

「これは、すごい…北の方の織物みたいですね。」

真っ白な生地に一面に雪の結晶が散りばめられた、とても上等な着物が入っていた、そしてもう一つ

「櫻の便箋…」

雅は便箋を手に取り、短いぶっきらぼうな文書に目を通した

"近々寄る。 仁"

「楽しみにしてるでありんす」

嬉しそうに微笑む雅を見て、柳生は安心したように息を吐いた

「先生、ありがとうございんした」

丁寧に頭を下げ

「いえ、いいんです。 では、また来ますね?」

柳生は立ち上がり

「お身体には十分お気をつけてきださいね」

紳士のような笑みを浮かべて柳生が座敷を去っていく

一人座敷に残された雅は、雪の結晶の散りばめられた着物を胸に抱き幸せそうに微笑んだ


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