*長編*

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「綺麗な、夜じゃな…」

窓枠に腰を掛け、一人の遊女が呟いた

その容姿は中性的な顔立ちをしており、切れ長で吊り上がった目尻、それでいて、儚さを感じさせる金色の瞳
口許には、艶めかしく映る黒子に、頭髪は月明かりに照らされ銀色に輝いていた

ーー名を、雅。

「雅姐様っ!」

そこへ、元気良く襖を開け、雅に飛びついたのは、雅の禿である、紅華であった

人懐こい笑顔と、少し癖の強い漆黒の髪をしている

「こら紅華、静かにしんしゃい」
と、静かに咎め

「へへ、ごめんなさーい」
雅は少々紅華に甘く、今も頭を撫で微笑を浮かべている

「で、どしたん?」

「ぁ、はい! 店主サマからの伝言っす♪」
何て?と答え

「明日、柳生先生来ますって!」

「ん、そうけ、わかった」
静かに 頷き、外を見やる

「柳生先生、お土産持って来てくれるっすか?」
目を輝かせながら紅華が問う

「さての、まぁ、あん人ならくれるんとちゃう?」
と、微笑み

「今日は、暇になりそうじゃな」
と、一人でに呟くと

「残念やけど、そうでもないで? 出番や、雅。」
座敷の戸口に、丸眼鏡を掛け、片手に煙管を、片腕を緩くはだけさせた着物に忍ばせながら、この店の主、忍足がやってきた

雅は綺麗に微笑み「誰?」と、問う

「幸村さんや、準備、できとるな?」
雅は小さく頷き

「紅華、御案内してきてくんしゃい」

はい!と返事をし、座敷を出ていく

「…ほな行くけど、無理すなや、雅」
と吐き出て行く

「…心配しないでおくんなんし。」



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