短編2

□最期の愛を囁いて
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俺が愛してる人の、愛した奴が死んだ。
死んだ奴は、俺の知り合いでもあった。
仲もそこそこ良かったし、付き合ったこともある。
初恋だった、仲間だった。
そして….愛し、愛された人、だった。


幸村の死は突然やってきた。

"幸村が倒れた"

そのメールが来て俺は、いや、俺達はすぐに病院に向かった。
俺はたまたま近くの建設現場で仕事をしていたから10分程度で到着することができた。

俺が病室に着いた時、幸村はすでに生死をさまよっていた。
そして、幸村の横には俺の愛してる人がいて、必死に幸村の名を叫んでいた。

幸村が息を引き取る直前、幸村は俺を見てた。
恋人の跡部ではなく、元恋人の俺を見てた。
そして涙を流して、微笑んで、死んでった…そんな、気がした。


「跡部……」

俺は甘い声で跡部の名を呼び、冷えた身体を温めてもらうかのようにすり寄った。

「どうした。」

跡部は優しい。
幸村が死んだその日、俺は跡部を誘った。

「明日…明日で、幸村がいなくなって一年じゃ…」

跡部は俺を抱いてくれた。
涙を流しながら。

「あぁ。」

「お墓参り…」

「分かってる。」

その時の涙の意味、あの時の俺には分からなかった。
けど、今は分かる。

「ありがと」

「仁王?」

「ううん、なんでもなか。」

跡部は優しい。
けど、幸村はもっと優しかった。
いや…跡部も幸村も同じくらい優しくて、同じくらい俺を愛してくれた。

幸村…
愛しとったよ、最期まで。

ありがとう幸村…
最期まで愛してくれて。



「景吾、愛しとる…」

跡部は何も言わなかったが、代わりに優しいキスをくれた。


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