短編2

□最愛なるマリオネット
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「また来る。」

そう言って出て行ったあいつの目は真剣だったから、だから俺はなにも言えなかった。

"また来る"そう言った時にもっとしっかりと否定しておかなくてはいけなかった。

また、来て欲しい…そう思ってしまった。

狂わされた。

「うわぁあぁぁあぁ…」

会いたい、会いたい会いたい、会えない…来て欲しい、駄目、来ないで!来ちゃ駄目。


どうして、たった一回言われただけ…
たった一回会えただけ、これは偶然…
でも、そのたった一回で期待を抱いてしまった…

もしかしたらって、そう思ってしまった。

駄目、やめて、もうこれ以上踏み入ってこないで。

「俺とお前は兄弟だ!」

嘘。
違う。
兄弟なんかじゃない!

俺たちは…他人。

「ハル、約束だ!お前の事は俺が守る!」

やめろ、やめてくれ。
そんな嘘、やめてくれ。

「ずっと一緒だ。」

そんなの嘘だ!!


「マサハル」

「っ…」

「泣いてんのか?」

「…っなんで……」

自分でも驚くほど小さな声だった。
でもあいつは聞き取ったらしい。

「約束したろ?また来るって」

約束….
"約束だ!お前のことは俺が守る!"

「俺は来るなって、言ったはずじゃ。…お前のような奴が、来る所じゃない。」

ダメだ。
これ以上話してたら甘えてしまいそうになる。
助けて欲しくなってしまう。
期待を抱いてしまう。
愛されたいと、願ってしまう。

早く…この場から消えてもらわないと。

「マサハル」

「帰れ…」

たった一言、この言葉しか頭に浮かばない。
俺はだいぶ、あの一言に、この懐かしい人物に毒されてしまったらしい。

「帰らない。」

うるさい。
帰れ…帰ってくんしゃい。

「帰らねぇぞマサハル、嫌…ハル。」

「っ!!」

今…なんて?
ハルって、言った?
なんで、忘れてたんじゃなかの…?

「思い出した。俺には昔、腹違いの兄弟がいた。銀髪で、華奢で、病弱で、泣き虫で、女の子みたいな顔してて、すげー可愛い、俺のかけがえのない、大切な弟。」

やめろ…そんなこと、俺は忘れた。

「…っひと…違いじゃ……」

くそ、なんて弱々しい声なんじゃ、なんで涙なんか出るんじゃよ。
やめてくんしゃい…

「約束しただろ、お前は俺が守る。遅くなったが、助けに来たぜ、ハル。」

「っ….うわぁあぁん…」

木製の格子越しに俺たちは抱きしめあった。
暖かい、初めて、此処でこんなに暖かいと思えたのは。

「ハル、此処から逃げ出すぞ。二人で……」



子供の頃に忘れてしまった愛を、シアワセを教えてやる。


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