NOVEL01

□ズキ・ズキ・キズ
2ページ/2ページ

「泣いてんぞ。お前。」

その拍子にジョニィの目尻からポロポロと涙が伝わり枕に落ちた。
嫌な夢だった。屋敷に戻らされた気分だった。

夢を見た理由はわかっている。別に自分の精神状態が悪くなったわけでも体調が悪いわけでもないのだ。

「…ジャイロ、さっきの話、…夢、かな…僕の」

ジャイロがまばたきをする。映画の俳優のようなドラマチックな潤し方だ。よくそんな風にまばたきができるなと感心する。

「…好きだって言ったのは現実だ。」

寝ぼけてんなよ。



☆☆☆


ジャイロの服で乱暴に擦られた目元がまだひりひりと痛い。
暮れかけの空は晴れていた。月明かりで進めるだろう。昼間寝ておけてよかったが、ジョニィの体はくたくただった。結局まるで寝た気がしない。
腫れた目で馬に揺られるジャイロの横顔を見つめる。あの男の百万倍いい男で、いい奴なのは確かだが、恋人になりたいとかセックスしたいとは思わない。もともとノーマルで、男に抱かれたいという気持ちはまるでないのだから当たり前だった。
ただ体に教え込まれた内側での興奮がもう一度欲しくなってしまうことがある。女々しくてあさましくて嫌な記憶なのに、性欲に支配されている時だけはそんなこと思いもしないのだ。

「おいおい、そんなに気にしないでくれよ。取って食ったりしねーよ。」
「…ほっといてくれ」

馬に乗ったまま、腕を伸ばして頭を撫でられる。今度は享受しておく。仏頂面がぐらぐら揺れた。嫌だとは思わない。好かれるのも優しくしてもらえるのも無条件に嬉しい。忘れられてしまうよりずっと幸せだと思う。
ただ、もしあの使用人と同じだったら嫌だな。とだけ思う。ああいう関係はもうこりごりだし今のジョニィにはもう必要ないのだ。
ジャイロが歯を剥き出しで笑った。

「なんか弟とかと一緒に居るみてえだ。お前さんといると」
「…やめてよ」
「可愛いって褒めてんだよ。ほっとけねえの。優しくしてやりてんだよ。」

頷くわけにもいかずジョニィは口角を左右に引き伸ばした。


<END>

続くつもりで書いていた文章が紛失したのでこれでおしまいということで。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ