「んー、何というか暇ですねぇ」

ミアキスは伸びをしながら城の廊下を一人歩いていた。



スキスマイル


王子の軍に加わってからと言うもの、護衛すべきリムスレーアもおらず暇を持て余すことが多くなった。

それでも太陽宮にいた頃とは違い、王子軍は皆個性が強いし、飽きることはない。

それに、同じ女王騎士であるゲオルグやカイルもいるので肩身の狭い思いをすることもなく馴染めていた。

「何か面白いことがないもんですかねぇ」

城の仲間は和気あいあいと日々を過ごしているが、皆何かと動き回っていて中々かまってもらえないのが不満だった。

もちろん、最愛の人である王子はこの城で1、2を争う多忙さなのでゆっくりと話す時間も少ない。

「…ぃ……りだって…」
「いいから…」

これから何をしようかと思案していたら、後ろから話声が聞こえてきた。
ミアキスは振り向いて声の主を確かめる。

「そこにいるのは誰ですかぁ?」

ミアキスが聞くと、物陰から人が出てきた。

「よぅ、ミアキス。何やってんだ?」
「ぁ…ミアキス、元気?」

出てきた声の主はニッと笑って手を挙げたロイと、何故だか困ったように笑う王子だった。

「王子、ロイ君。こんにちはぁ。私は暇だったの散策してましたぁ」
「ふーん。そうか」
「そうですぅ。二人は何の内緒話してたんですかぁ?」

顔が似ているし、二人並ぶと兄弟みたいだなと微笑みつつ聞く。
ミアキスの質問に顔を見合わせる二人が何とも微笑ましく感じる。

特に、太陽宮では年の近い同性の友人がいなかったであろう王子の事を思うと、尚更ロイの存在はミアキスにとっても嬉しかった。
時に反発しながらも、何だかんだいって仲が良い二人なのだ。

「あ、いやぁ…」
「これからどうすんだって話してたんだよ」

言葉を探す王子に代わってロイが答えた。
その言葉を聞いて、少しだけ嫉妬する。
自分に逢いに来てくれてもいいのに、と。
そう思いつつ二人を見ると、ミアキスは妙な違和感を感じた。

「…?」

首を小さく傾げて見つめる。
二人は特に変わった様子はないが、ミアキスの心は薄絹のようなもやが掛っているようだった。

「…どうした、ミアキス?」

ロイがミアキスの様子に気づき目を瞬かせる。
王子もロイの言葉を聞き心配そうに覗き込んでくる。

「ミアキス、具合いが悪いの?」

ミアキスはふと、違和感の正体に気づき、心の中でそうか、と一人納得した。
そして、王子に向かってにっこりと微笑んだ。

「王子、突然ですが私は王子が大好きですので、今、ちゅうしようと思います」


「「??」」


突拍子もない発言に、聞いていた王子とロイは唖然としていた。
ミアキスはそんな二人を気にすることなく、覗き込んだままだった王子に顔近づけキスしようとする。

「ままま、お…ロイがいるしってそうじゃなくて、えっと」

王子はうろたえ体を後ろに反らす。
その分ミアキスは体を前に出し有無を言わさずキスを………

しようとしたところ、後数センチのところでロイの手に阻まれた。

「だーめ。ミアキス本気でキスするつもり?」

ロイは苦笑いしながら、王子からミアキスを引き離した。
その言葉の端々が何処か甘ったるく、先程感じた違和感がミアキスの中で決定的なものになる。

「あらぁ、ロイ君に止める権利はないでしょう?ねぇ、王子?」
「あ、いやその」

ミアキスはクスクス笑いながら同意を求めた。王子は気まずげに目をそらす。
すると、ロイは腰に手を当て溜め息をついた。その表情は何とも面白くないようである。

「気づいてるんでしょ?あんまり意地悪しないで」
「へ?気づいて…ええっ!?」

王子は驚きロイとミアキスを交互に見る。
二人の反応を見て、ミアキスはたまらず声に出して笑った。

「もちろん。気づいてますよぉ、ロイ君…いえ、王子」

王子、と言われたロイは…否、ロイの格好をした王子は降参という風に両手を小さく挙げた。

そう、王子とロイはお互いの変装をし、入れ替わっていたのだった。
それがミアキスの感じた違和感の正体だった。

「ちぇっ、リオンくらいにしかバレねぇと思ったのによぉ…」
「残念でしたねぇ〜」

王子の格好をしたロイも口調を自分のものに戻し、悔しげに頭を掻いていた。

しかし、バレてしまったが、うろたえても王子の口調を崩さなかった所は、さすが伊達に影武者をしてはいないな、とミアキスは感心する。

「最初から気づいてた?」
「いいぇ〜。確信を持ったのは、私が黙った時、先にロイ君…いえ、王子が聞いてきた時ですねぇ」

ミアキスは満足そうに笑いながらも、不思議がる王子に答える。

王子はミアキスのちょっとした異変に、いつもすぐ気づいてくれていた。
その分、些細な事でも心配をかけてしまう事は心苦しかったが、やはり嬉しい。
それに、ロイも心配してくれたことも嬉しかった。

「そういうことで、さっきの意地悪は仕返ですぅ」
「ぼくが、キスを止めるって分かってたから、か…まあ今回は何もいえないなぁ」
「オレは焦ったけどな!」

王子とロイは肩をすくめて笑った。

王子は口では困った風に言っているが、ミアキスが大抵の人が騙される二人の変装に、気づいたことが嬉しかったようだった。

「さあさあ、二人とも早く着替えた方がいいですよぉ?」
「確に。リオンに見つかったら大変だ」
「…だな」

ミアキスは苦笑いする王子とロイを見送り、また一人廊下を歩き出す。


王子と一緒にいたいのは山々だったが、ロイと楽しそうにする王子を見て、たまには男の子だけの時間も必要だろうと思った。

そして、王子の楽しそうに笑う顔を思い出し、ミアキスも思わず笑みを溢した。




END



ということで、久々(?)の王ミアでしたー。

ロイとの友情を絡めつつ(笑)

しかし、タラシィな王子好き様には少々物足りなかったかもしれませんね。
今回はミアキスが上手な感じだったので…。申し訳ないです。

しかし!まあ、ミアキスは歳上ですし、たまにはお姉さん風もいいかなって思います。
書いてて楽しかったですし。

気に入っていただけたら幸いですー。

感想などありましたら、ぜひお聞かせ下さいっ。



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