さんさんと太陽の光が降り注ぐセラス湖の城の船着き場。

スバルとランは肩を並べて腰をおろし、たゆたう湖面を眺めていた。

「なあ、ラン…」
「なんだ、スバル?」
「オレって、女っぽく見えるか?」




片想い大作戦


「見えないな」

ランきっぱりと言いきった。
いつもなら怒鳴り声で言い返すスバルは、湖面を見つめたまま溜め息をついていた。

「…まぁ、そうだろうな」

ポツリと呟いてまた溜め息をつくスバルに、ランは変なものでも食べたのでは?と不安になる。

「おいおい、いったいどうしたんだ?」
「王子さまの護衛の…リオンとか見てるとさー。やっぱり隣はあんな…はぁ」

スバルのその一言で、ランはピンときて、はっはーんと頷いた。
どうやら結構重症らしい、スバルの恋の病とは。

スバルはまだ、一人で何が駄目なのかーと悩んでいた。
そんなスバルを見てランはバァンと一発背中を叩いた。

「いってぇっ!何すんだ!?」
「スバル、ここでちょっと待ってろ!!」

ランは得意気に笑って立ち上がる。
スバルとは顔を合わせば言い合いだが仲が悪いわけではない。
ランはスバルのために一肌脱ぐ決意をしたのだ。

スバルは叩かれた背中を擦りながら抗議の声をあげようとしたが、ランはすでに走り出していた。

「あんの馬鹿力め…」

痛みに顔をしかめつつ姿を見送った。



◎◎◎◎

ランが急いでやって来たのは、ジョセフィーヌの部屋だった。

「いったい貴方は何の用ですの!?」

ジョセフィーヌは珍しい訪問者に眉を潜めて聞いた。
ランは対照的に満面の笑みを顔にたたえて口を開く。

「ジョセフィーヌ、アンタが着てるみたいな服を貸してくれ!」
「はぁ?いったい…何につかうんですの?」
「ちょっとな!なぁ頼むよ。アンタみたいな女の子らしい服が必要なんだ!!」

ランは事情が飲み込めず、困った顔をしているジョセフィーヌに手を合わせて頼み込んだ。
ジョセフィーヌはランの“女の子らしい”に気を良くしたのか、途端に満更でもない顔をする。

「分かりました。良いでしょう」
「本当か!?ありがとう、ジョセフィーヌ!!」

ランは早速ひらひらレースがついたワンピースを借りた。
最初、何だか変なデザインの服を勧められたが丁重にお断りした。

「じゃあ、借りてくなー!」

ランは言うが早いかジョセフィーヌの部屋を飛び出して行った。

「よし、次は…」



◎◎◎◎

ランが次にやって来たのはロイの部屋だった。

「ロイ、カツラ貸して!」
「あぁ?何でだよ」
「まあまあ、今度釣りで対戦するから頼むよー!」

ランはまた手を合わせて頼み込んだ。

「まぁ、いいぜ」
「やった!ロイありがとう!」

ロイは“釣りの対戦”に惹かれてすんなり了承しカツラを差し出した。
ランは礼を言って受け取り足早に部屋を出る。

「さて、戻るか!」

スバルのいる船着き場に向かい走り出した。


◎◎◎◎

「スバル、待たせたな」
「おー、おかえりって何持ってんだ?」

息を切らしたままのランの持つ物、それも、やたらヒラヒラした服に見覚えのある銀髪のカツラにスバルは驚いた。

「これ着ろ」
「ええっ!?」

ランは驚き固まるスバルに服一式とカツラを押し付けた。
女らしさはまず見た目から入るのが良いと考えた。
そして、スバルの髪型は決して女らしいとは言えない。髪はすぐに伸びるわけではないので、カツラを借りることにしたのだった。

「オ、オレこんなの似合わねぇよ」

思い切り躊躇するスバルにランはここで退いてたまるかと肩を掴む。

「いいや!女らしくなった姿を見せるんだ」
「だ、誰に…?」
「もちろん、王子様だよ!」

そう言って今だ座っているスバルを強引に立たせる。スバルはまだ事を理解しきれていないのか、されるがままになっていた。

「オレ…」
「ラフトフリートの女はグダグダ言わず即行動!ほら着替えてくる!」
「お、おぅ」

ランの押しの強さはキサラ譲りである。
スバルは勢いに押され、反論する間もなく着替えに行った。



◎◎◎◎

「な、なあ…どうだ?」

暫くして、着替えたスバルが戻ってきた。その声にランはワクワクしながら振り替える。

「…………ぷっ」

ランは思わず吹き出してしまった。
スバルは似合ってないわけではないし、自分させた格好だったがいつもの見慣れた姿からはかけ離れていたのでつい笑ってしまったのだ。

「笑ったな!!お前が着替えろって言ったくせに!」
「わ、わりぃ!違うんだって。王子様に見せようぜ!」
「何が違うんだよ!って見せれるわけがないだろう」

顔を真っ赤にして怒るスバルに、ランは必死に謝り本来の目的を提案する。

そう、ランの目的は王子に見せてこそ達成されるのだ。
しかし、スバルはスカートの裾を握り締めブンブンと首を左右に振る。

「嫌だ!似合ってないって笑われる!」
「王子様が笑うはずないって。ほら言葉づかいとか女らしく気を付けろよ」
「絶対嫌だ!無理だ!!」

二人は睨み合う。
ランがいつもの言い合いになりそうだと思った時だった。

「おーい、ラン!」

なんというグッドタイミングだろう。
ランは神様はいるのかもしれないと思った。

そう、自分を呼んだのは王子だった。このタイミングを外さない辺りも王子の資質の一つなのだろう。

「よう、王子様」

ランは思わず笑みが浮かぶ。スバルをちらりと見ると、それこそ地下の石像の様に固まっていたが見なかったことにする。

「釣りしにきたんだけど…その人…スバル?」
「ち、違う」

さすが王子。さとい彼がスバルに気づかないわけがなかった。
スバルは消え入りそうな声で否定するのが精一杯らしい。

「そう、スバル!たまにはこんな格好も良いだろ?」

ランは王子によく見えるように、赤面を通り越して蒼白になったスバルを押しやった。

王子はきょとんとスバルを見た。その反応を見て失敗だったかとランは不安がよ切る。

「スバル…似合ってる、可愛いよ」
「…え?」
「カツラ着けてるから、一瞬分からなかったよ。やっぱり女の子だね、うんうん。可愛い」

王子はスバルの頭にぽんと手を乗せ微笑んだ。
ランの不安は杞憂に終わり、ホッとした。
スバルはというと、今度は顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせている。

「あっ、そうだこれ…」

王子は呆然とするスバルを気にすることなく、自分の懐からリボンを取り出すとスバルの首に蝶々結びにすると満足そうに頷く。

「スバルにあげる。っていっても戦利品なんだけどね」
「あ、ああ。ありがと…」
「どういたしまして」

まだ状況のついていけないスバルがしどろもどろに礼を言うと、また王子が微笑んむ。
ランはその様子を見ながら、王子様は女の敵かもしれないと思った。

「釣りをしようと思ったけど、また今度にしよっか」
「わ、わりぃ」
「何で?いいのに。せっかくだし話しよう?ラフトフリートの話とか聞かせて?」

王子はすとんと座ると、自分の横をポンポンと叩いてスバルを促した。
それを見て、ランはこっそりその場を去ろうとしたが、スバルに見つかりがっちりと腕を捕まれる。


そうして、暫くの間三人で話をした。

ラン的に今回の目的及び目標は、王子の王子様っぷりのおかげで見事大成功に終わることになる。



END



王←スバ+ランでした!!できあがりちよっと違いましたが…。

片想い大作戦と言うより、ラン目線での上、おせっかい大作戦でしたね(汗)

その上、王子は女の敵です。天然タラシに拍車がかかり申し訳なく…。
ミアキス、めちゃくちゃ苦労してそうですね。

スバルが実際似合っていたかは…ご想像にお任せします(笑)




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