ロイは悩んでいた。
何の悩みかというと、今、王子軍の城において空前の大ヒットをしているある流行語についてだった。
そう、ロイは流行に乗れずにいた。
その流行語というのは
『そんなに――だと、チューしちゃいますよ?』
という、ミアキスの伝説の言葉である。
ノリが命の王子軍において、流行に乗れないというのは、致命的だった。
別に、本当にキスするわけではない。ないのだが、シャイボーイを自負するロイにとっては難題である。
先日、王子がルクレティアに
『あまり無茶言うと、ちゅーしちゃうよ?』
と、さらりと言っていたのを聞いてしまった。
「何なんだ王子さん、スマートに冗談言いやがって」
ロイは溜め息混じりに呟く。
ルクレティアもいい大人なので、ひらりとかわしていたが…。
何か悔しい。王子に出来て自分に出来ないことは…たくさんある。
が、ここは漢・ロイ。一大決心をすることしにた。
◎◎◎◎
ということで、ロイのターゲット、リオンを見つけ、順調に雑談中である。
「最近はロイ君も三節棍の技術が上がっているみたいですね」
「そうか?まあ、時間がある時に王子さんひっかけて相手してもらってるからな」
「ふふっ。頼りにしていますよ」
「あー、あぁ」
いったい、いつ言えば…?
ロイは“あの言葉”を言う機会を窺っていた。
その為、リオンの話もちゃんと聞けておらず、いつもなら飛び上がって喜びそうなリオンの言葉にも気づかずにいた。
くそ、皆どのタイミングで言うんだ!!
「――したらいいんで…あの、ロイ君?聞いていますか?」
「あぁ…あ!わりぃ、あんまり聞けてなかった」
「お疲れですか?」
リオンが心配そうに覗き込んできた。
まさか、“あの言葉”をいつ言うか考えていた、など言えるはずもなく、慌てて取り繕う。
「いや疲れてねぇ何でもねぇ!…わりぃ」
リオンはそれを聞いてクスリと笑った。まだ覗き込んだままなので、意外に距離が近く脈が早くなる。
「ならいいですけど。ちゃんと話を聞いてくれないと…チュー、しちゃいますよ?」
ロイはリオンの言葉に耳を疑った。
チューしちゃいますよ??
ロイがショックのあまり口をパクパク開閉させていると、リオンは少し頬を紅く染め、悪戯っぽく笑っている。
「あ、私、王子に呼ばれているんでした!それじゃあロイ君、また!」
リオンは硬直したままのロイを残し去っていった。
「ぅわー…」
ロイは我にかえり、脱力と共にその場にしゃがみ込んだ。
照れと喜びの気持を持て余し、うつ向いたまま頭をガシガシと掻く。
心臓がうるさい。
「くそーやられた」
リオンが流行に乗るのは正直意外だった。その上、先を越され少し悔しい。
しかし、アレは反則だ。
可愛すぎる。
「はぁーこうなりゃ、フェイロン使って流行に乗るしかねぇな」
ロイは気をとり直して、立ち上がった。
そして、伝説的な用語を繰り出したミアキスに感謝をする。
このさい、風呂を覗いて追い掛け回された記憶は奥底にしまって…。
END
やっぱりロイリオ大好きだぁぁぁ(叫)
スランプ抜け第一段です。
そろそろ、今までよりもステップアップしたラブラブ感を出すのが目標でしたが、どうでしょうか?
『ロイ君幸せ計画』の一端です(笑)。王子についてはもはや何も言いますまい(ぇ)
後日談として、フェイロンに“あの言葉”を言った漢・ロイは、見事張り手をくらったそうな。