「いつもと変わりなし…ですね」

ルセリナは日課の城内巡回をしながら周りを見渡した。
視界には普段と変わらぬ仲間や変わらぬ風景が広がっている。



ねがいごと


多忙な王子に少しでも安らげる場所を。
そう考え始めた城内巡回。しかし、始めてしばらくして自分自身に得られるものが多いことに気づいた。

仲間とのコミニケーション。
ルセリナも皆に声をかけ、仲間のコンディションやメンタルを知れる。

城内の変化の把握。
何か問題があってもすぐに対処できる。それは王子の仕事の負担の軽減になる。

そして…同じく巡回中の王子にばったり出くわす。
中でもこれはルセリナの楽しみの一つ…否、一つに入れることすらできない“特別”であった。

「ダ、ダメダメそんな不純な動機で巡回なんて」

ルセリナは慌てて頭に浮かんだ言葉をかき消すように首を左右に振った。
なにが“特別”だ。
しっかりしなくてはと自分を戒めるように両手で赤く蒸気した頬を軽く叩いた。

「王子ぃ、せっかくの休憩時間なんですからかまってくださぁい」
「駄目だよ、ミアキス」


不意に後ろから知った声が聞こえ、ルセリナは思わず振り返った。
王子とミアキス。その姿に眉を潜める。


二人が一緒にいる所を見ると、どうしても心がざわついてしまう。

「絶対ですかぁ?」
「絶対。今は散策中なの」
「わかりましたぁ。リオンちゃんと遊んできますぅ」

ルセリナの気もしらず二人のの楽しそうな会話は続いていた。
しかし王子の“散策”という言葉を耳にし、ルセリナは自然と顔をほころばせた。
時間があると城内を歩いて皆と話す。それは王子にとって仕事ではないのだ。

「やぁ、ルセリナじゃないか」
「殿下…」

ミアキスと別れ一人になっていた王子が歩み寄ってきた。ルセリナは少し緊張しながらも丁寧に頭を下げた。

「ルセリナも散策中?」
「あ……あの、はい」

王子の柔和な微笑みに鼓動がはね上がり、うまく答えられなかった。
ルセリナにとって王子は憧れでこの様に近くにいても遠い存在だった。
こうやって会話するようになって久しいが、いまだに緊張してしまう。王子はそんなルセリナを気にすることなく微笑みを向ける。

「僕もよく城を歩いて回っているけど、君の名前をよく聞くんだ」
「わ、私の名前、ですか?」

思いがけない王子の言葉にルセリナは驚きを隠せなかった。
王子に報告される様な何かをしてしまったのか、と不安になる。
毎日城を徘徊しているとか?
どうしよう、王子にどんな風に見られているのだろう、と内心大慌てだった。

「そうそう。よく“調子はどうか”とか、“足りないものはないか”とか気にかけてくれるってさ」

そういえば備品不足とか聞かないな、と王子はルセリナの不安などに気づくことなく呟きながら歩き出した。
ルセリナは王子の少し後ろについて歩きながらホッと胸をなでおろした。

「そんなことですか」
「そんな事、じゃないでしょ?とても助かっているんだ」

思いもよらない王子の言葉にルセリナは驚き、一気に頬が熱くなるのを感じた。
直接戦って王子を守れない自分なりに出来ることをしようと考えたら、今のようになった。もっとも、最近の動機は不純だったが。

「私がお手伝いできるのはそれくらいですから…それにこうやって殿下とお話できま」
「ねぇ、なんで後ろにいるの?」

王子は歩みを止めたかと思うと、ルセリナの言葉を遮り疑問を口にした。

「それは…私は殿下に、きゃっ」

恐縮しきりのルセリナを王子がいきなり腕を捕んで引っ張り、ルセリナは思わず声を上げる。

「後ろじゃなくてよーこっ!」
「いえあの、殿下、それは…」

遠慮します…と言おうと王子を見やると思いの外顔が近くにありルセリナは息が止まる思いがした。それを気づかれたくなく、急いで言葉を探す。

「でで、殿下の横になど、わわわた、わたくしの様な民草がそんな、私、私」
「ぷっ、民草ってルセリナ何それ!アハハハ!!」

泣きそうになりながらあたふたとするルセリナを見て、王子は声を上げて笑う。

「殿下っ、笑わないで下さい!」
「ごめんごめん。とにかく、後ろにいたら話しづらいでしょ?」
「うー…はい」

ね、と笑う王子にルセリナはしぶしぶ頷いた。
王子は満足したように頷いて、掴んだままだったルセリナの腕を離しまた歩き出す。

「そうそう、ルセリナは何か願い事ってない?欲しいものかさ」
「願い事、ですか?」

唐突な問いにルセリナは首を傾げた。しかし、すぐに思いつき返答を待っている王子を見た。

「殿下の幸せ、です」
「ありがとう…でも、そういうのじゃなくって」

王子は少し照れたようにそして困ったように笑う。
ルセリナはそんな王子を見て微笑んだ。
少しだけ、わがままになってみようかな。
そんな思いが脳裏をかすめた。

「では…一つだけ」
「うんうん、何?」
「時々、こうやって散策をご一緒させてください」

ルセリナの願い事に拍子抜けしたのか、王子はえー!と気の抜けた声をあげた。

「そんなことでいいの?」
「そんなこと、ではないですよ。大事なことです」
「そっか、わかったよ」

王子が不思議そうにしているのを気にせず、ルセリナは頭を下げた。
王子にとっては何ということもない願い事かもしれない、しかしルセリナは約束された“特別”な時間を大切にしようと心に誓った。


END



お、お久しぶりでございますぅぅぅぅ!!
やっとこさアップできました。ふぃー。
ルセリナ→王子なお話でしたが、糖度が足りない気がしますがどうでしょう?

読んでくださってありがとうございます!
楽しんでいただけたら幸いです!



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