「ロイ君、そこを退いて下さい」

「嫌だね」

この同じ会話を交すのはこれで何度目だろうか?
そんなことを考えながらロイは自分を睨みつけているリオンを見つめていた。


駆け引きの勝者は?

本拠地のある一室。
ロイが戸口に背をもたれかけさせてリオンと対峙して、かれこれ小一時間が過ぎようとしていた。

この状況を作るのは簡単なもので、ロイがリオンを呼びつけて出口を塞ぎ出れないようにしている。

それだけのことだ。

そして事の発端も、王子第一のリオンの態度に勝手に嫉妬して勝手に我慢が出来なくなっただけの事。
要はロイの我が儘である。

「ロイ君、私には王子を護衛するという使命があるんです。もし今、王子の身に何かあったらどうするんですかっ?」

リオンが声を荒げる。
いつもならここでリオンの言い分を聞いて道を譲るだろう。
しかし、今のロイには全くそのつもりはない。それに、今の王子の護衛は予めカイルに頼んであった。
その事をリオンに伝えるつもりは毛頭無かったが。

ロイは変わらず睨みつけてくるリオンを見た。


「そしたらオレが王子になり変わってやるよ」

悪びれた風もなく言い放つと、リオンの頬は怒りでみるみる紅く染まる。

「何て事を…!ロイ君、いい加減にして下さい!!」
「いい加減にするのはリオンだろ!?」

ロイが言い返した言葉にリオンは目を見開いた。
怒りのためか、怒鳴られたためかはロイには計りかねたが、そんなことはどうでもいい。

「前にも言ったかもしれねぇけど、アンタは口を開けば王子、王子だ」
「私は王子の護衛です。当たり前でしょう?」

「アンタはそれで良いかもしれねぇけど、王子さんはどう思ってるんだろうなぁ」
「どういう意味ですか?」

眉を潜めたリオンを見つつ、ロイは腕を組んだ。リオンの真面目さ、想いの強さは呆れを通り越して敬服ものだが、自分だってリオンに対する気持は誰よりも強いという自負がある。
勿論、王子よりも。

「誰だって、四六時中付き纏われてたら嫌だろ」

「王子は自分の立場を解っていま――」
「王子だから平気、王子だから仕方がない、王子だから王子だから。オレだったら死ぬほど嫌だね、んなもん」

ロイが吐き捨てる様にいうと、睨みつけていたリオンの大きな黒い瞳が揺らいだ。

「ロイ君、意地悪を言わないで下さい…」

たまらず下を向き、消え入りそうな声で呟いたリオンに、ロイは手を伸ばした。

そして、抱き締める。

「っ!?ロイ君っ!」

慌てて腕から抜け出ようとするリオンを逃がさないように、腕に力を込める。

きっと早鐘の様に打つ自分の鼓動はリオンに伝わってしまっているだろう。
それでも、今は離すわけにはいかなかった。

「わりぃ…。王子さんの事は、言い過ぎた」
「…………」

諦めたのかどうなのか分からないが、リオンはロイの腕の中で大人しく耳を傾けている。

「たださ、リオンには王子さんだけの世界でいてほしくねぇよ。周りをもっとよく見ろよ」

自分を見てくれ、と言いたかったがそれを言う勇気は今のロイには無かった。リオンに否定されるほど怖いものは、今の自分には無いのかもしれない。

「だぁかぁらっ、一人でしょいこむなってこと!」

抱き締めていた腕を緩め、名残惜しいがリオンを離しながらロイは笑った。

リオンは不思議そうにロイを見つめる。きっといつもの如く、自分に対する恋心故の行動だなんて気づきもしていないのだろう。

「何かさ、楽しいこと見つけろよ。やりたい事をさ。思い付かねぇなら、オレが嫌って言うほど連れ回してもいいし」
「連れ回されるのはちょっと…」

リオンはクスっと小さく笑う。そんなリオンを確認して、ロイは苦笑いしながらも言葉を続けた。

「女王騎士だっている、竜馬騎兵団だっている、王子さんを守りたいって思ってるヤツなんて山ほどいるんだ。リオンばっかりが護衛してるとか妬まれたりな」

ロイの言葉に少し首を傾げリオンはニコリと笑う。

「王子の護衛は譲りませんが…でも、ロイ君の言ったことも実践してみます」

何とも真面目なリオンの、リオンらしい答えにロイは笑った。

「連れ回されるのは遠慮したいですが、いろいろ分からないことが多いのも事実です。だから、ロイ君」

リオンは一度言葉を止め、ロイを見た。ロイもリオンを見つめる。

「今度、オススメを教えて下さいね」

ロイはリオンの言葉には答えず、扉の前を開けた。

「じゃあリオン。今王子の側にはカイルがいますが、これからいかがいたしますか?」

わざとらしいロイの丁寧な言い方を聞きながら、リオンは前に進み出た。

「勿論―――王子の所に」

ロイがその言葉にガックリと肩を落とした。が、リオンは言葉を続ける。

「王子の所に行って暇をもらいますと言ってきますね」

ロイはバッと顔を上げた。リオンは待ってて下さい、とニコッと微笑んで小走りに部屋を出ていった。



END



久々のロイリオです。
…っていうかロイ――っ!!?どうしたの!?と書いていて自分でもビックリでした(笑)

こんなロイリオもアリかなぁとか。
以前、男らしいロイが見たいというお声も頂いていましたし。そうなっているかは不安ですが…。

ロイも王子の影響を受けてきたのでしょうか?(笑)



[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ