「慎重にお願いしますね、ロイ君」

リオンが耳元で口早に囁いた。
ロイはリオンの方を見ずに満面の笑みで頷く。
我ながら気持悪いな、と心の中で苦笑いした。
なぜなら、ロイは今、王子の影武者をしていたからだった。


やくそくしよう


ロイとリオンは、城から少し離れた街に来ていた。
それも“王子の視察”という名目で。

王子の影武者をするのはいつものことであった。慣れてもきている。しかし、ロイは今回少し緊張していた。
その理由は、リオンが護衛としてついてきているからということと、お忍びでの視察だったので二人とも平民服であるからだった。

今回の作戦は

『王子に一日休暇を』

ミアキス発信である。
最近忙しく、丸一日休めない王子を気遣っての提案であった。
ということで、王子は今、ロイの格好をしてミアキスやカイルと王子軍の勢力内の地域を散策中なのだ。

最後まで王子の側を離れることを渋るリオンを、偽王子がバレないためとなんとか説得し、今に至っている。


「心ここにあらずって感じだな、リオン」
「そんなことありません」

一通り視察を終え、街を出たロイとリオンは、王子から預かっていた瞬きの手鏡は使わず、並んで歩いていた。
今更ながら、王子の格好をしてリオンに怒られないことに違和感を感じてしまう。

「よく考えてみると、影武者をしているロイ君をちゃんと見るのは初めてな気がします」

リオンも似たような事を考えていたのか、苦笑ぎみに小さく笑う。
ロイは気まずいような、恥ずかしいような気がして、頭を掻いた。

「そう…だったか?」
「はい。口調もちゃんと王子してるんですね」
「口調違ったら影武者にならねぇだろ…王子さんだってオレの格好する時は口調違うぜ?」

ロイの言葉を聞いて、クスクスと笑っていたリオンが咎めるような視線を向けてきた。

「よく入れ代わってるんですか?」
「あーいや、よくってわけじゃあ…」

慌てて否定したが、リオンは疑いの眼差しを向け溜め息をついた。
ロイはしまったな、と内心嘆息する。

「全く…王子まで…」
「まあ、いいじゃねぇか。そのお陰でこうして王子さんも息抜きできるんだし」
「…そうですけど」

眉を寄せて顔をしかめるリオンにロイは肩をすくめてみせた。

「じゃ、お城に帰りましょう」
「あ、待ってくれ!」

ロイは瞬きの手鏡を取り出したリオンの手を慌てて掴んだ。
リオンはまだ何かすることがあっただろうか、と驚き目を瞬かせる。

「もう仕事も終わったことだし、遊んで行こうぜ」
「駄目ですよ、ロイ君は今は王子の代わりを努めているんですよ?」
「たーのーむーこのとおり!!」

きっぱりと否定するリオンに、ロイは両手を頭上でぱんと合わせ頼み込んだ。
それでも渋るリオンにさらに畳み掛ける。

「王子さんだって今頃楽しくやってんだ。オレ達だって楽しまねぇと損だぜ」
「それはそうですが…」

リオンの心が揺れたのを見て、ロイは掴んでいた手をそのままに引っ張った。

「ロ、ロイ君…」
「せっかく城の外にいるんだぜ?それも二人で。こんなこと…滅多にないだろ?」

歩きながらリオンを見る。そう、城の外で二人きりなどほとんどない。

「そういえば…以前ビッキーさんに飛ばされた時以来でしょうか?」

リオンも今の時間を楽しむきになったのか、手を引かれるままに歩き、クスクスと思い出し笑いをしている。
ロイも思い出してバツが悪くなり、空いた手で頭を掻いた。
因果なことに、あの時もロイは王子の格好をしていた。それに気付き、嘆息する。

「あーどうせなら王子さんの格好をしてない時に遊びたい…」

ぽつりと呟いた声が聞こえたのか、リオンがロイに掴まれていない方の手でロイの服の裾をちょいちょいと引っ張った。
ロイがそれに気づきリオンを見ると、リオンが微笑みを向けてきた。

「では、今度王子にお願いしてみましょう?」
「え…」
「王子にお願いして、今度一日…いいえ、半日でも、お休みをいただいて…っというのは護衛失格でしょうか?」

悪戯っぽい笑みを浮かべるリオンにロイも笑って答える。

「じゃあ、王子さんので格好で遊びに行こうなんて誘うオレは影武者失格だな」

改めて顔を見合わせて二人は笑い合った。
ロイの頭の中では既にその時の外出のプランがよぎる。
よく知っているセーブルを案内するか、それとも二人とも馴染みない場所を散策するか…計画は尽きることはない。

「じゃあ、今日は今日で楽しもうぜ」
「ロイ君、王子の姿と言うことを忘れないで下さいね!!」

ロイはリオンを掴んでいた手を離し、先行した。リオンの言葉に振り返る。

「勿論。さあ、リオン、街の散策に行こうよ!」

ロイはわざと王子の口調を強調し改めて手を差し出した。
今度は掴んだ手を引っ張るのではなく、手を繋いで歩くために。

リオンも肩をすくめて笑うと、ロイの手を取り歩き出した。



END




何とも、んん?なロイリオでした(汗)
レス板にて今までの話を繋げて…と書きましたが、ボツりました!反映されてないですねー。
ミアキスの呼び出し〜計画の所ですが…ボツページ行きになりそうです。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。



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