「ミューラーさぁん、聞いて、聞いて!」
「うるせぇ、このボケェ!セラス湖の湖底に沈んでろ!」
「ヒャハハ、それがいい」

ここはリンドブルム傭兵旅団の部屋。
日常の光景を繰り広げていた旅団の面々。
その時、乱暴なノックの音と共に扉が開かれた。


「たのもー」




似たもの同士



扉から現れた珍しい訪問者に皆目をしばたかせた。

「おぉ!可愛いねーちゃんじゃねぇか!」
「ヴィルヘルム、お前は黙ってろ。で、あんたこんな所に何の用だ?」

いやらしく笑うヴィルヘルムを目線で抑えつつミューラーはハヅキを見る。
ハヅキは目を細目ると次の瞬間、抜刀しミューラーめがけて刃を閃かせた。


ガチィッ


「キミは何がしたいの?」

リヒャルトが一瞬の合間にミューラーとハヅキの間に入り込み、刃を剣で受け止めた。その表情は微笑を浮かべたままだが、瞳の色はは冷たい。

聞かれたハヅキは感心したように軽く息を吐く。

「…貴殿がリヒャルトか?」
「そうだけど?」
「リヒャルトという剣豪がいると聞いてな。そちらの方かと思ったのだ。失礼したな」


刀を納めミューラーに軽く頭を下げる。それを見てヴィルヘルムが、そっちはミューラーだ、と腹を抱えて爆笑した。

「それで?キミはボクに何の用なの」

剣を納めたリヒャルトがヴィルヘルムを無視して聞く。

「ふむ。剣の相手をしてもらいたいと思ってな。…つまりは一騎討ちを申し込みたいのだ」
「嫌だね」

申し出を即答で断られ、ハヅキは眉を寄せ見つめた。

「なぜた?貴殿のその筋肉は飾りではないだろう?」
「だって面倒だもん」
「なっ!」

予想外の答えにハヅキは目を見開いた。
ニコニコと笑うリヒャルトに肩透かしをくらった気分になる。

「剣豪が聞いて呆れる!」
「剣豪だから滅多に剣を振るわないの。もう、せっかくのミューラーさんとの時間を邪魔しないでっ」

リヒャルトはパタパタとミューラーの方へ寄ろうとしたが、ミューラー自身の足によって阻まれた。
ハヅキはそれをなんとも複雑な面持ちで見つめる。

「おい、ねーちゃん。コイツやるから持ってってくれ」
「いや、リヒャルトなんかほおって、オレらと呑もうぜぇ」

ミューラーがリヒャルトの首ねっこを掴んで投げてきたのでハヅキは思わずキャッチする。
ヴィルヘルムはこのさい無視することにした。

「ミューラー殿、いいのか?」
「おぅ、煮るなり焼くなり。寧ろそうしてくれ」
「酷いよミューラーさぁん」
「かたじけない。じゃあ遠慮なく 」

ハヅキは泣き真似をするリヒャルトをズルズル引きずり部屋を出た。




◎◎◎◎


「さて、お相手願おうか」
「だからぁ、嫌だってば。…それより、キミもボクと同じニオイがするね」
「同じミルーンの風呂に入っているんだから当たり前だろう」

クスリと笑うリヒャルトを見てハヅキは首を傾げた。

「違う違う。ベルクートさんを追っかけてファレナまで来たんでしょ?」
「追っかけた、と言うと少々語弊があるような気がするがな。貴殿のこともベルクートから聞いた」
「そうなんだ。んーやっぱり近しい感じがするよ」

リヒャルトはにこりと笑顔をハヅキの方へ向けた。それを見て、ハヅキはこのような柔らかい雰囲気の者が剣豪とは…と意外に思った。
しかし、先程ミューラーとの間合いに割って入ってきた時のことを思うと、頷かざるをえない。

「いったい何が近しいのだ?私は貴殿の様にヘラヘラしてないが」
「ボクがミューラーさんの追っかけで、キミがベルクートさんの追っかけってこと!」

「お、お前と一緒にしないでくれっ!!」

ハヅキはリヒャルトから離れ間合いをとった。噂に聞くミューラー狂と一緒くたにされてはたまらない。

「そんなに嫌がらなくてもいいのに…」

リヒャルトは苦笑し肩をすくめる。どうやらハヅキの様な反応に慣れているようだった。

「かたじけない。別に嫌がっているのではないんだ。貴殿と私では意図が違う」
「えっ、ボクのミューラーさん好きっていうのを呆れてるんじゃないの?」

目をしばたかせるリヒャルトを見てハヅキは少し笑ってしまった。
リヒャルトはいつも微笑んでいるようだが、自分よりは表情が豊かなのである。

「別に。皆に出会う前に、ミューラー殿を崇拝…いや、尊敬するに値する時間が流れたのだろう?それをよく知らないのに、呆れるも何もない」

ハヅキが小さく微笑むと、リヒャルトはガバッと抱きついてきた。

「!!?」
「嬉しい!そんな風に言ってくれる人、王子様以外にいなかったからっ!」
「は、ははは離してくれっ」

あまりに急な出来事にハヅキは赤面して固まった。
それに気付いたリヒャルトは、我に帰り体を離す。

「ごめんごめん。つい興奮しちゃった」
「……い、いや。だ、だだだが、確かに毎日これをやられると、ミューラー殿の反応も分かる気がするが」

ハヅキはバクバクと拍動する心臓と戦いながら言う。
普段なら即座に一刀両断だが、目の前の人物は何故か憎めない。

その憎めない人物は、ハヅキの言葉に眉を寄せている。

「そうなんだよね〜。ついつい体で表現しちゃってさ」
「理解は出来るな。私もベルクートを前にすると一騎討ちを挑まずにはいられない」

二人は頷きあった。妙なところで意気投合である。

「ねぇ、ハヅキ、だよね?」
「ああ。」
「ボクも一騎討ちは受けられないけど、一緒に訓練したりはできるよ?」
「ふむ。それは面白そうだな。いいのか?」
「うん。キミが中々腕が良いのは、ミューラーさんに斬りかかった時に分かったし」

さらりと言われハヅキは気まずげに眉を潜めた。

「あの時はいきなり悪かったな」
「別にいいよ。で?訓練一緒にする?」
「よろしく頼む」

ハヅキは律儀に一礼した。リヒャルトは嬉しさのあまり、またテンションが上がったのか、喜びながらハヅキの手をとりぴょんひょんと跳ねる。



それから二人は、時間があれば一緒に訓練をするようになった。

協力技ができるのはそれから少し先の話である。





END



大変お待たせしましたぁぁぁ!(土下座)

リヒャハヅ、恋愛要素は無いに等しかったですが、この話の後に仲が深まるかと…。
余裕ができればこの先も書いてみたいと思います。
この二人は噛み合ってるのかいまいち分からない感じで仲が良さげです。

追っかけ仲間(笑)
楽しんでいただけたら幸いです。





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