小説部屋
□captive
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「六角中…、相変わらずボロい学校だな。…ん?」
足早に目的のテニス部へと向かう途中、ひとつのテニスボールが、俺の足元へと転がってきた
「すみませーん、そっちにボールきませんでしたかー?」
丁度ボールを手に取ったその時、弾むような声と共に慌ただしい足音が近付いてきた
「…えっ!?」
俺の顔を見るなり、そいつは呆然と立ちつくした
「いつまでもマヌケな顔してんじゃねえよ、葵」
素直すぎるその反応に、自然と表情が緩む
「あっ…跡部さん!?どうして…」
葵は小走りで俺の元へかけより、何度も目を瞬いた
「確か修学旅行だったんじゃ…」
「今日まで、な。昨日連絡しただろうが」
そう告げて、軽く額を小突いてやった
『明日に帰る』と連絡したときには、土産が欲しいだの散々騒いでたってのに…
「わ、忘れてたわけじゃないんです!ただ、帰るその日に来てくれるなんて思ってなかったから」
額に手を当てながら、葵は上目づかいで俺を見つめた
「…まぁいい。とにかく、ここじゃ落ち着いて話せねぇ。お前んとこの部室に案内しろ」
「部室…ですか?」
葵は不思議そうに首を傾げた
「氷帝の制服は目立つからな。それと、土産はお前の分しか買ってねぇから、俺のことを他の連中には言うんじゃねぇぞ」
運よく葵と会えたってのに、ここで他の連中に気付かれると厄介だからな…
「そっかぁ、確かにお土産が無いと、皆怒っちゃうかもしれないですよね」
俺がそんな考えを巡らせているとも知らず、葵は脳天気に呟いた
「わっかりました!皆には僕がうまく誤魔化しておきますね。とりあえず、先に部室に行きましょう」
にこりと愛らしく微笑むと、葵は俺の手を引いて歩きだした