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□thirty-sixth.
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「僕は自ら望んでスリザリンを選んだ。その事は今でも後悔はしていない。だが、ポッターが改心してからは少しだけ焦りがあったのかもしれない」

 口元を隠しながらもセブルスは伏目がちに自身が思うリリーへの想いをレギュラスへ吐露し始める。彼が前回まであった左腕の忌々しい印から、今回は離れると決意表明にもレギュラスは思えた。

「傲慢さが完全に消え去った訳では無いがそれでも前よりはマシになったポッターにリリーが取られるのでは無いかと。リリーが僕以外の誰かを好きになってしまうのが……怖かった」

 ぎゅっと寄せられる眉。震える声がセブルスの葛藤も恐怖も隠す事無くレギュラスへと訴える。

目の前にいるのはシリウスの生き様を見た時に何度も見た教師のセブルスでも、いじめられっ子のセブルスでも無い。リリーと言う少女に恋をし、悩む幼気なただの少年だった。

「もしレギュラスとこうして研究会を頻繁に開催していなければ僕はリリーと会う機会が本当に少なくなり、想像もしたくないが……もっと苦しんでいただろうな」

「……」

「そうなったら今以上に強く思うのだろう。最も優秀な闇の魔法使いである死喰い人になるしか、リリーの離れていく心を取り戻せないのだと……そんな目で見るな。言っただろう、お前の研究に自由を捧ぐと」

 
ーー今の僕に闇に浸るほどの余裕など忙しすぎて無い。

そう鼻で笑い飛ばしたセブルスにレギュラスは自身が物凄い顔で先輩である彼を睨みつけていたことに気付き、我に返って謝る。

気にしていないと頭を振るセブルスは完全に目を伏せながらも独り言のように物憂げに呟く。

「だがレギュラスの言う通り、僕等は相手の本当に求める物を知らない。だから僕は、僕が考えたリリーの心や関心を取り戻す為にと思っている事は全て僕の独り善がりなのかもしれないな……」

「……」

「それによってリリーの心が手が届かないほど遠くに離れ、彼女の笑顔すら霞むなど馬鹿らしい。本当に手に入れたい人を自ら手放す愚行などスリザリン生らしくないことを、僕はしない」

「どんな手段を使っても目的を遂げる狡猾さ。高貴なるスリザリン生らしい冷静さで最善を選べ……」

「……その通りだ。流石ブラック家の次男。スリザリンに入る前提の英才教育は寮が違っていても染みついているようですな?」

「両親の教育をお褒め頂き、恐れ入ります」

 皮肉にも笑顔で返すレギュラス。セブルスは疲れたように肩で溜息をつくと口元の手を外し米神に手をあてぐりぐりとマッサージをする。

まるで頭の痛い問題に対面した様子だがレギュラスにとってはこれくらいの皮肉は朝飯前だ。無駄に図太くなった精神には中々傷をつけることは容易では無いのだろうとレギュラスは嘲笑いたくもなる。




 そんな時にタイミングを見計らったようにリリーが遅れてやってきた。彼女らしくも無く廊下を走り乱れた髪を恥ずかしそうに撫で付けて謝る。

噂の人物が現れたことにセブルスが動揺をしていたが、ガタッと音を立てて立ち上がったと思えばリリーが座る席を下げてやるのだから、突然のことにリリーは驚き困惑気味だ。

「えっと……セブ、ありがとう」

「い、いや……」


 まるで付き合い始めのカップルの気まずさを彷彿させるやり取りにレギュラスは苦笑を漏らす。

妙に意識しているセブルスが忙しなく体を揺らすので不思議そうにしているリリーへとレギュラスは事のあらましを説明する。セブルスが今それを言うのかと喚いたがリリーと目が合えばそれ以上は何も言えなかったようだ。

せめてもの救いに「セブルスがリリーを好き」という話題をそれとなくレギュラスがメリッサを好きと言い換え、大まかに説明すればリリーは納得してくれた。

そして物言わぬ貝に等しいセブルスの代わりにレギュラスは彼女の本心をストレートに聞いてみた。透明感のある翡翠色の瞳は柔らかく細まり、やはり陽の下が良く似合う笑みを晒して言う。


「リリー先輩が本当に求めるものとは何ですか?例えば未来の話でも、研究の話でもなんでも構いません」

「そうね……私は、今この場にいる私の大切な人達と笑い合って居心地の良い、暖かいお日様の下でピクニックをする未来が欲しいわ。誰かが争うことも無く平和でありきたりな幸せがいいの」

 ほぅ……と熱い息を漏らしリリーを見つめるセブルス。その視線を受け取るようにリリーはセブルスを見つめ、悪戯をしかけるように笑って言うのだ。

「寮が違っててもセブがそこにいてくれなきゃ私嫌よ?絶対あなたは未来で私達とピクニックするの!」

「あっああ!分かってる、分かってるから……顔を近付けるのはやめてくれっ」

「本当に分かっているの?セブったらまた闇の魔術にはまって僕はピクニックに行く時間があるなら闇の魔術の本を読みたいだなんて言ったら私怒るわよ」

「言わないッそれに僕はレギュラスの研究で忙しいから、そっち系は放置することを決めたんだ。そうだろうレギュラス!?」

「え……あ、はい」

 ただのカップルの痴話喧嘩が飛び火してきた気分だったがレギュラスは空気を読んで肯定する。だが空気を読んだ甲斐があると言えるのだろう。

激しく動揺をして赤面するセブルスに詰め寄っていたリリーがバッと離れて嬉しそうに微笑み、レギュラスへと再度真実かと問い頷き返されたと同時に頬に両手を添え甘酸っぱい幸せに頬を緩ませる。

そんな彼女の笑みを初めてみたといわんばかりに真っ赤な顔で凝視するセブルス。惚れた方が負けとは誰が言った言葉なのか……これほど的確な言葉は無いとレギュラスは胸焼けしそうな中見守る。


「ふふっそう!安心したわ。未来でも私達ってきっと研究の話ばっかりしているんでしょうね。ふふふ」

「……ああ、してる筈だ」

「二人共約束よ?いつか大人になって誰かと結婚してもちゃんと集まってピクニックするのは絶対揺らがないんだから!」

 嬉しそうに笑うリリーは眩しくてメリッサとはまた違う美しい笑みを浮かべている。そこにはまだ見ぬ幸せが詰まっていて決して揺らがないと信じている。

そんな見てるだけ幸せを感じ取れる笑みに魅了されるセブルスは、彼女が本当に求めることを何としてでも守ろうとするのだろう。リリーが望む陽の下で、彼女の隣で。

まだまだ遠い未来の話をテンポよくし始める二人にレギュラスは満足気に微笑み、さり気なくメリッサを呼んでいいかと提案し会話に溶け込んでいく。

予行演習のような暖かい会話に皆が同じ表情で肩を揺らし、騒ぎ過ぎて怒られないように張り続けた防音魔法をレギュラスは更に強めて口元をあげた。




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