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□thirty-fifth.
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 異物が反応する呪文は無い。ならば作るしか無いと決断したセブルスは人気の無い本棚の前で物色をしていた。

レギュラスが近付けば一度不快そうな視線を向けたと思えば掌を返すように暖かな物へと変化しそっと視線は外される。懐に入れた人間に甘い人なのかもしれない。

セブルスの横に立ってレギュラスはふとそう思えた。だが絶対に口に出そうとは思わないのはセブルスという人間が嫌がるポイントを知っているからなのだろう。


 渋みがかる茶色の本を取り目次を眺めるセブルスが消え入りそうな声でそっと尋ねてくる内容に思わずレギュラスの動作が止まる。

本を取ろうとした指先が止まり何事も無かったように動けば適当にページを捲りながらレギュラスは声のボリュームを落とし返答する。人気が無いからこそ声を潜める必要があった。

「……お前の兄は僕が嫌いだろう、僕もあいつが大嫌いだ。だが新学期に入ってからのアイツはおかしい。レギュラスが何かしたんだろう?」

「……何のことでしょう?」

「ふん、とぼけるな。大方ポッターが妹に改心させられたようにブラックもそうなったのだと思わない方がおかしい」

 小声ながらも声を尖らせるセブルスはストレートにレギュラスの裏での行動を責めている。気付かない方がおかしいという言葉の通りだと断言出来るシリウスの去年とは違う行動。

ーーセブルスを虐めることは新学期開始より一切行っていない。


 もう暦の上では冬だが、九月以降から約三ヵ月もセブルスは音沙汰が無いことにホッとする訳でも無く。

彼曰く無駄な時間が研究に回せると鼻を鳴らしたが。この原因は間違いなくレギュラスにあると決めつけている事実に疑われた本人は本の内容を流し読みしながらもあっさりと答える。


「まあ僕が兄に交渉をしたのは事実ですよ」

「何のためにだ。僕は別に頼んではないぞ」

「勘違いしてはいけませんよセブルス先輩。僕自身の為に兄と交渉したんです。僕が想像する未来の為に兄に大人になって貰おうとしただけですから」

ーーその結果が現状に結びついているんでしょう。


 メニューから品をオーダーするようにあっさりととんでもない事を言い放つレギュラスにセブルスは瞠目する。

心意を探す様に目を細めるセブルスだったがやがて盛大な溜息を吐き、埃が舞ってしまう勢いで本を閉じてギロリとレギュラスを睨みつけた。

「……お前は大人びている処か考え方が成熟した大人のものだ。子供のように泣き喚いて兄に虐めを止めたのならば面白い物を……つまらん」

「おや。泣き落としを希望でしたか?残念ながら僕はメリッサの前でしか泣きません」

「好きな女の前で泣くのもどうかと思うがな」

「うぐ……っ」

 悔しそうな声を出し動揺するレギュラスにセブルスは口角を上げる。棘が一切無い穏やかな声色で決意を紡ぐセブルスの初めて見る姿に瞳孔が開くほどに驚く。

利用価値のある先輩はどこまでもまっすぐに感情を返してくる。悪意には悪意を、好意には好意を。

レギュラスの胸の奥底に隠されたセブルスへの尊敬や好意を覗いてみてしまったかのように。利用価値の奥底へ手を突っ込み本音を引き摺りだしたように。セブルスの言葉はレギュラスの胸を揺さ振った。

「……惨めな時間だったがそれが完全に終わったというならば、僕は自由な時間を全て研究につぎ込もうと思う。どんどん利用すればいい。それだけの事をレギュラスはあっさりとしたんだ」

「先輩……?」

「僕はやると決めたことは何があってもやる。僕がお前の研究へと本腰を入れると決めたのだからこの研究は必ず終わらせる……それがレギュラスへのお礼だ」


 言うだけ言うとセブルスは本をレギュラスへと押し付け振り返ることなく違う場所へ移動してしまい背中はすぐに見えなくなった。

訳が分からない状態だったがレギュラスは十秒二十秒と時間が経つごとにざわざわと胸中が強く蠢く。背筋がヒヤリとするのは誰にも言っていない本心を覗かれた気分になったからか。

ぶつぶつと早口で呟き状況を整理するレギュラスは人気の無い場所でよかったと思う。そうでなければ他人からは呪いをかけているようにしか見えなかっただろう。

「開心術?……だが覗かれたあの感覚では無い。じゃあ何故?……先輩がたまたま言っただけか、僕への礼と言う言葉の通りか。この二年で先輩達をどうみているか感じたからか……?」


 押し付けられた本と適当に取った本を元の場所へ返す。その渋い茶色の背表紙をふと見つめ、悩みは全て溶けて消えてしまった。

セブルスがわざわざ人気の無い場所にいたのも、この本を選んだのも。レギュラスが抱く疑問を解決する為に選んだとしたならば、敵わないと思ってしまう。

無意識に寄せられた眉が弛緩していく。ふ、と笑えば背表紙をなぞる指もあっさりと撫で下ろす。

それが彼の本心ならそれでいいじゃないか。そう微笑んで思えるほどに。


ーーただのお礼だ。それ以上でも以下でも無い〜極上のソファで祝福を〜



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