テイルズオブディスティニー

□Look at me
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 夢を見ている。そうでなければ都合が悪い夢だと思えた。



 全てが黒一色に染まった世界にハルは座り込んでいた。すると目の前の何もない空間より、掌くらいの光の球が現れたと思えば少女らしいラインを形作り色を付けだした。

弾けるピンクのワンピースは清らかになびいていた。壁や床の境目すら黒過ぎて判別がつかない空間で赤い靴先をつけたその部分は、黒い水面がささやかな波紋を浮かべていた。

根から花の先までも女の子を貫くような少女が現れたのだ。その白い瞼の裏から、懐古の念を引き摺り出されそうな茶色の虹彩が覗き出す。

呆然とその様子を見上げていたハルへと少女は世界に色が満ちていきそうな笑みを浮かべ、耳を疑う一声をあげた。

「ハル」

観客となり圧倒される役をその一言で脱ぎ捨て、疑心の灯火が心を熱する感覚に従う。

「誰」

「ふふ……やっぱりハルはハルね。警戒心が凄く強い。でも……それがあなたの本質では無い事を皆知っているわ」

 少女はハルへと近寄り膝を折る。勝手にハルの手を握り額へと寄せ、神に祈る姿勢を取り出した。

反論も、手を払う隙も与えないつもりなのか……少女は手を握ったまま急に立ち上がる。

「さあ、ハル! いいものを見せてあげるわっ行きましょう!」

 見えない何かに体を押される。ハルの体は糸に引き寄せられているみたいに立ち上がり、足は駆け出す。

 少女が黒い水面を蹴る度に若々しい草花が咲き乱れた。悪夢から覚めるかの如く世界が白い花に包まれていく。黒い水面も黒い天井も、全てが白く塗り替えられ、白い部屋へと景色は変化した。

驚きっ放しのハルへと振り返った少女は唇を手で隠して笑う。

「やだ、驚きすぎよ」

 解放された腕をハルは恐々と擦る。瞬きをした直後に部屋の壁と言う壁に、中身の詰まった本棚が立ち並び、少女の手には一冊の本が収まっていた。

突拍子の無い現象までもハルを翻弄してくる。ハルは敵意の削がれる無垢な笑みの持ち主を睨む。

「……何が目的?」

「ふふ。これよ」

 傷ひとつ見えない腕が抱える本の表紙はハルへと向けられる。ハルは困惑を強めた。タイトルも無い、黒味を帯びた深く鮮やかな紅色の本を白い指が持ち直し、表紙を開いた。

長年読まれ続けていたのか色褪せた紙が次第に目も眩むほどの強い光を放ち、それは本の外へと溢れて天井目掛けて勢いよく噴出した。

 天井を這う眩い光。浸食しきった後に光は数個に分裂し、距離を取り始めた。各々の場所で、黒以外の色をなくした天井を宇宙代わりに恒星のような光の球へと変化した。

なんとか直視出来る光の球に人の姿が映り出す。そこには少女も、ハルも、リオンに似た人間……も見えた気がする。

知らない光景が淡々と流れていく。なんだこれ。そんな感想ばかりが胸に蔓延る。

「ハル」

 少女はハルへと揺るがない信頼から生まれるに等しい笑みと言葉を差し出してきた。

「一緒に旅をした私達の軌跡はね……あなたにとっても宝物であったといつか気付いて欲しい」


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