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□forty-sixth.
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 長さがまちまちな杖が緊張や僅かな恐怖、疑う面々によってレギュラスへと突きつけられる。

その数は六本。今からかける呪文に怯える事も無く凪いだ海のような態度で持ってレギュラスは冷静な声でもう一度確認をする。

「いいですか。僕は決してあなた方の呪文を拒むことはしないのでほぼ確実に悪影響は発生しない筈です。見る意思を強く持ち、口に出して下さい……三、二、一」


ーーレジリメンス。



 瞬間六本の杖の先から眩い光の矢がレギュラスの胸へと突き刺さる。それは血を流すことも無く太陽の光を胸に集めたように眩しい。

目が眩む強い光は六本の矢がレギュラスの胸の中で一つの大きな固まりとなったと思えば、部屋を埋め尽くす閃光を放ちジェームズは反射的に瞳を閉じてしまう。

その最後に見えた白い視界の中でレギュラスの口元が孤を描いている気がした。















「……僕だけ?」

 上下左右の判別が難しく平衡感覚が狂ってしまいかねない真白な空間にジェームズは一人立っていた。

あの場にいた他のメンバーがいない。不安に思い周囲を見回したが影ひとつ見つけられなかった。そもそも必要の部屋を用いたこと自体何かしらレギュラスが仕掛けたのではと勘ぐってしまう。

全員が纏めてレギュラスの記憶を見る流れだと信じ込んでいたジェームズは杖を握る手に力を籠め警戒を強めた。だがその警戒すら絡まった糸が簡単に解けていくように意味を成さなくなる。


「メリッサ……!」

 突然真白な世界に今日は病欠してしまった大事な妹が出現し、ジェームズは認識すると同時に彼女の名を呼んだ。しかしよく見ると体型も髪の長さも伸びて成長を遂げたように見える。

子供らしさが削がれた清純そうなメリッサがニコリとジェームズに向かって微笑む。反射的にジェームズの頬が緩むが次に言われた言葉に固まってしまう。

「初めまして」

「え……?」

「……初めまして」

 固まってしまうジェームズの思考を滅茶苦茶に掻き乱す新たな要素が、どこかで聞いた覚えのある男性の声となりジェームズの背後から聞こえてきた。

思わず振り向くと同時に世界が目覚めていく。真白な世界に波紋が広がり忘れていた色を引き連れ戻ってきたと思えば、その場は必要の部屋では無く図書室の一角へと変わる。

本棚も床も窓も差し込む陽光もリアルな物へと変わっていく世界の中でジェームズは振り向いた先にいるシリウスに似た男子生徒が柔らかく笑っている光景から目が離せない。


 つい先ほどまで会っていた人物が成長した姿なのだと分かる。今のジェームズよりも学年は上なのかもしれない。

元々端正な顔立ちでいて由緒ある家系の血が色濃く出た成長を遂げた男子生徒は、読みかけの本を閉じてそっと机に置く。

男子生徒と成長したメリッサの間に立っている状態のジェームズを彼女はすり抜けて男子生徒の元へ親し気に駆け寄る。通り抜けていく横顔は耐え切れない喜びに満ちて見えた。

初めましてなんて言葉とは裏腹に会いたかったと体現する雰囲気は二人の関係を如実に表しているのだろう。図書室の一角で堂々と抱き締め合うなんて……まるで密会だ。

「会いたかったの……レギュラス君」

「はい……僕もメリッサに会いたかった、なんて……昨日も会ったばかりじゃないですか」

「ふふ。それでもよ。あなたはいつどこで無茶をするか分からないし、私を置いて死んでしまうかもしれないじゃない」

「それを言われると耳が痛いなぁ……ですが僕もメリッサに同じ心配をしてますよ。死は僕等のすぐ横にいるのだから」

 そうね。寂し気に返すメリッサの姿には毛ほどの嘘も演技も含まれていないようだと長年兄として見てきたジェームズはそう思う。

つまりこの光景はジェームズを騙す為の物では無いのだ。レギュラスの記憶を覗いているのだから経験した記憶……もしくは妄想という線も一応あるが(まず無いのだろうけれど)


 仲の良い友人間で行うハグとは毛色が違うソレを終えた二人はそっと離れて見つめ合っていた。小さな紅葉同士が重なり合うのとは違い二次性徴を終えた性差のある手を握り合って。

ほどなく手を繋いだまま陽光が差し込む窓辺に背を預け、隣り合いながら会話をし始める。そこでジェームズは初めて……自分が否定していたレギュラスの言葉にほんの一筋の真実を見つけてしまい言葉を失う。

現実世界では二人仲良く胸元に揺れる同じネクタイの色。しかしよく見ればネクタイもローブの色もレギュラスだけ違う。

彼は、家に背く選択をせず重苦しい家名のしがらみを背負ったーースリザリンのレギュラス・ブラックだった。





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