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□forty-fourth.
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 ホグワーツに入学した当初からシリウスとセブルスは特に仲が悪かった。

初対面からの印象も地を這うよりずっと低く、虐めが始まった時も誰よりも嫌悪と愉悦で顔は歪んでいたくらいだ。

レギュラスとの約束のこともあり、ジェームズの改心もあり、虐めは終息を迎えたが……廊下ですれ違う時の凍り付いた眼差しが交わるあの瞬間は、彼等の心の声を如実に表しているのだろう。



ーーお前なんか大嫌いだ、と。





 

 そんな二人はざわざわと解放感や期待感で弾む生徒の声で満ちたキングス・クロス駅のホームで言葉無く向き合い無機質な視線を繋げていた。

足を止めて時間さえも止まった様にホームに立ち尽す二人の後ろからは続々と生徒が群衆の波へと駆け足で潜り込む。

これが恋人同士ならば別れが名残惜しいのだと察する事が出来るが、その言葉には合わない視線や雰囲気の冷徹さはちぐはぐで。

相手の一挙一動を見逃さないようにと杖を向け合う決闘でも始まるのではないかと思わせる。


 雑踏に紛れながらも二人を見守るレギュラスとメリッサ。悪戯仕掛け人は勿論のこと、ハラハラと気が気では無い様子でそわそわと見守るリリーは二人の口から何が紡がれるだろうと待ち続けていた。

体感時間にして五分は静止していただろう。先に淡々とした言葉を紡いだのは無機質を見るような視線を閉じたシリウスの方だった。


「この一年俺はスニベリーに何をした?」

 杖を突きつけるような厳しい雰囲気は薄れることは無い。だが渋い顔をしたセブルスも雰囲気から目を背けるかの如く視線を逸らし、突っぱねる口調で言う。

「……何も。何もしていない」

「そうだな。口も手も出していねえからスニベリーにとっては天国のような一年だったろうよ」

「誰もそこまでは言っていないだろう」

ジェームズやレギュラスといったシリウスの懐に入った人間へと向ける暖かな態度とは全く違う。どこか純血主義を語るスリザリンの高圧的な態度にもよく似て、グリフィンドール生を貶す姿そのものだった。

だが彼等と似た態度を取りながらもシリウスは、閉じていた目を開ける。侮蔑は全く見えないがどこか冷めたようにも見える灰色の瞳はまっすぐにセブルスを見て決して交わらない視線を辿る様にそっと逸らす。

「俺はお前のことは気に食わない。スニベリーも俺が気に食わない。俺達だけなら別にそれだけでよかった。でもレギュラスは俺達がある時期までに普通の日常会話が出来るようになって欲しいんだとさ」

「無茶を言うな」

「無茶だな。だが無理では無いだろ。それに俺はその約束を承諾しちまった。アイツが望むことを叶えてやりたい……この一年で少しずつ俺の中で気持ちを切り替えて実行に出せたのは、今日が初めてだけどな」

 そういって苦笑するシリウスの姿にセブルスはぎょっとしていた。無理も無いだろう。なんせ今まで嫌い合っていた相手が急に態度を軟化させて距離を縮めようとしているのだ。

困惑の極みに達しているのかセブルスは訝し気に眉を吊り上げてシリウスの様子を窺っていた。

二人を見守っている面々の中からシリウスの成長に感嘆の声を零したり、セブルスを心配するリリーの声がぽつりと聞こえたりとしており、レギュラスは口を引き締め事の展開を見守る。


「……僕は別にブラックと会話出来なくとも何も困らない。たとえレギュラスが願ったなんていった所で僕は何も」

「ああ、そういえばレギュラスのことをお前はどう思っているんだ?」

「……っ人の話を遮って勝手に日常会話をしようとするな!!」

 ほぼ間違いなくわざと話を遮ったのだろう。怒鳴るセブルスの前で「どうなんだ?」と問うシリウスは強制的に会話へと引き摺り込もうとする算段なのだろうか。

そしてそれに嫌々ながらも話題性に誘われセブルスは腕を組み少々態度を軟化させて口を開いた。二人の共通点であり、セブルスと交流があるレギュラスの話題を引っ張り出す計算具合にブラック家の血筋が垣間見える。

メリッサからレギュラスが耳打ちされた上記の内容になんとも言えない気分になったのは言うまでも無いだろう。


「……レギュラスは優秀で秀才。努力を惜しまない姿勢は研究仲間として尊敬に値するが?」

「一言で言うと?」

「そこまで何でお前が求めるんだ!?……チッ、大事な後輩だ。あれほどの知識を持つレギュラスが何故ブラックの弟なのか理解できないがな」

「おま……!?」

 鼻で笑ったセブルスへ地味にショックを受けたような顔を晒すシリウスだったが、数秒後に静かにセブルスが紡いだ言葉に瞠目していた。

雑踏の騒がしさに掻き消されそうな声を聞こうと身を乗り出す面々の耳に飛び込んできた言葉に皆がシリウスと同じ反応を見せる程に意外なものだった。

「あんな弟が持てるお前がたまに羨ましくなる」

「スニベリー……あ、いや、スネイプ……」

「何だその顔は。鳩が死の呪文をあびたような顔をして」

「それ死んでるじゃねえかよ」

 驚きのあまり呆けた顔をジョークにもならない比喩をされ何とも言えない形相でシリウスは力無く頭を掻く。



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