2

□forty-second.
1ページ/2ページ




 あるべき姿に戻ったのだと嬉しそうに言い感動するシリウスの言葉は、誰に拒まれる事も無くいつものメンバーが首を縦に振り同意を示す。

この半年間決して同時に埋まる事の無かったソファの空席にあるべき人物達が鎮座するこの談話室は、普段とは少し違うざわめきで賑わう。それもそうだろうとレギュラスはメリッサと顔を見合わせ苦笑した。


「ご迷惑をおかけしましたが無事に問題は解決しまして、本日よりまた前のようにメリッサと一緒にいることになりました」

「お兄ちゃん達にもいっぱい心配かけてごめんね。詳しくは話せないんだけど、でももう大丈夫だから。今日からはまたこうして皆といる時間を増やしていくからね!」

 完全に事後報告なのだが苦笑しながら伝えるとシリウスとピーターはとても嬉しそうにしてくれた。だがジェームズはどこか不満そうに見えたし、リーマスに至っては真顔で黙りこくっている。

ジェームズのように怒っている訳では無いとは思うのだが、顔色が芳しくない所為もあってか誰よりも重い問題に直面しているようにも思えた。

不服ですと言いたげな表情を晒すジェームズはレギュラスから顔を背け頬杖をつき、不満気にぐちぐちと零した。


「……説明出来ない事情があるのは百歩譲って見逃してあげるけどさ、その距離感……何?」

「何か問題でもありますかジェームズ先輩」

「ありまくりだよレギュラス。なんでそんなベッタリくっついているかな……!」

 わなわなと震えながらジェームズが指差すその先には、レギュラスとメリッサの元々存在していた拳ひとつ分の距離が消滅し、肩どころか太腿が触れ合う距離感があった。

この場にいる面々はその距離感に気付きながらも関係修復の余波なのだと流していた所もあるのだろう。だがジェームズは満更でも無い二人の様子が腑に落ちず憤りを撒き散らす。

「いいかい!?いくら関係が修復されたからといって前以上に物理的に仲良くだなんてしなくたっていいんだよ!」

「……してないわよ?」

「どんな無自覚だって言うんだい!?」

 不思議そうに聞き返すメリッサにジェームズは頭を抱えてしまう。

レギュラスはメリッサとは違い意図的な距離感を攻めていたのが少々不純にも思えるが、心地よい体温を感じたい気持ちに抗うつもりなんてなかった。

必死に妹を説得しようとするジェームズの頑張りは暖簾に腕押しと呼べる成果をあげる羽目になりそうだが兄は唸りながらも説得を続けている。

「あーもーっだからさあメリッサ、お兄ちゃんは前々から思っていたけれど君達の距離感って近すぎだと思うんだよ。僕だってまだリリーとそんな距離を許された訳じゃないのに!」

「ジェームズとエバンズはやっと友達になった所だもんな?」

「なんだいシリウス。羨ましいのかい、あとそのニヤニヤした顔は腹が立つからやめてくれるかなっ」

「怖い怖い。なあリーマス。お前もそんな怖い顔してどうしたんだよ?ジェームズよりも酷い顔してるぜ」

 茶化しながら告げる言葉にハッと我に返ったのかリーマスは慌ててシリウスの方を向き、暫し迷う素振りを見せたと思えば言い難そうにレギュラスへと頼み事をする。

「レギュラスは確か防音魔法使えるよね?いまこのソファに座っている人間以外聞こえないように魔法をかけてくれないか?」

「……わかりました」

 鉄仮面をつけたように堅い表情がとれないリーマスの深刻な声に圧されレギュラスは杖を振るう。途端に周囲の賑わいが掻き消され世界から音声が消えた感覚に陥る。

周囲の寮生はきっと何も気付いていないだろう。だがレギュラス達からは生を感じられる動きは見えても動作音ひとつ聞こえないのだからちぐはぐさを感じない訳がなかった。

ピーターがキョロキョロと忙しない鼠のように周囲の様子を見る横でリーマスは眼前で手を組み深い溜息をひとつ吐く。そして面々からの視線を集める中で重い口を開く。

「ジェームズ、ピーター、シリウス。君達は僕の正体を知っているだろう?」

「何だよ突然……」

「いいから。知っているならYESと答えて。今すぐにだ」

 鞭を打ちつけるような厳しい声に顔を見合わせながらもシリウス達はYESと答える。

するとリーマスは不安と躊躇、それに闇を感じさせる重い眼差しをレギュラスとメリッサに向けて聞く。

「君達が僕の正体に知っているならYESと答えて」

 ギョッと驚く面々の視線がぱちくりと幼げに瞬きをする二人に突き刺さる。中にはとうとう知ったかと言いたげな意味合いに変わる視線もあったが、特に気にせずに二人は視線を交わす。

そっとメリッサが耳打ちする様子にジェームズの眉がピクリと吊り上がったのを見てレギュラスはそっと視線を逃がす。いま視線があったらとんでもないことになると分かるからだ。

「……言ってもいいのかな?」

「リーマス先輩がああ言うんですし構わないと思いますよ。返す言葉は三文字でよろしいですね?」

「そうだね。じゃあせーの……」


ーーYES

 なんの躊躇も無く言い放たれた言葉にピーターの顎が外れそうなほどの衝撃が走る。

あわあわと他の面々を見回しては「ど、どうする?」と混乱を極める素振りに、彼に隠し事なんて無理だろうとレギュラスは思えた。

リーマスは逃げる様に目を伏せて無言のまま組んだ手に顔を押し付けていた。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ