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□thirty-nineth.
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 今年の雪は異常な積もり方をしてマグルが必死に雪かきをする羽目になったらしい。魔法が使えるとは言え尋常じゃない積雪量に悩ましい溜息が出るのも無理はない。

魔法がかかっていなければ膝まで埋まるだなんて異常以外の何だというのだろう。ホグワーツ行きでは無いマグル用のキングス・クロス駅も雪の為に数日運休になったのも異常すぎる。

雪は溶けるのが最後の役目。なのに今年の雪はその役目をずるずると放棄し結局休暇が明けるまでイギリス中は混乱を極める事となった。


 
「今年の雪は溶ける事を忘れてしまったようだったね」

 リーマスが切り出した会話の糸を次々に握る面々。暖かな談話室のいつものソファには二人分のスペースが空いており、少々肌寒くも感じられた。体感では無く心がそう思うのだろう。

ジェームズはチラリと普段メリッサが座っていた席をじっと見つめた後に視線を皆へと戻し会話の糸を掴んだ。

「前代未聞だってね。あんなに雪が積もるだけだなんて勿体無い気がする」

「何だよピーター。リーマスと一緒にシロップやらチョコをかけて食べたいとでも言うのかよ?」

「ああ……食べればよかったのか」

「ちょっと!リーマスがその気になってきちゃったじゃないか!?」

「はははっ食べる時は呼んでくれよ?折角の楽しそうな光景を逃すなんて悪戯仕掛け人の名折れだからね」

「それ悪戯仕掛け人関係ないだろっ」

 暖炉の影響か。魔法の影響か。この場には一切の雪が積もらない。穏やかにリズムよく弾む会話は途切れる事も無く休暇明けの四人を笑顔にさせた。

だがジェームズは視界の隅にメリッサが座る専用の空いた席を収める度に心にずしりと冷たくも重い雪が降り積もる気がした。


 休暇の合間の彼女は日に日に憔悴していき何度も両親へホグワーツへ戻ると言ってきかなかった。

あまりにも必死に食い下がるメリッサは普段は憔悴して窓から遠くを見てるだけというのに、戻る旨を伝える時だけは本来の彼女が戻ってきているようにさえジェームズは思えた。

そう……見ていられなかったのだ。溶け切れない雪がただ無情にも降り積もるだけのこの場所にメリッサを留めておくことが正しいのだと思えないほどに。


 両親もメリッサの行動に困惑を示していたがジェームズが「休暇途中だが先にホグワーツに行かせてあげよう」と提案すれば悩んではいたが結局は首を縦に振った。

その時虚ろな顔で窓から白一色の景色を見ていたメリッサが久しぶりに、安心した笑みを見せてくれた。その顔をジェームズは忘れられそうにない。 

(よっぽど嬉しかったんだろうなぁ……あまり僕に、僕達に見せない顔。そう、まるでレギュラスに時々見せるような……)



「ジェームズ?どうしたのジェームズ」

「ーーえ……」

 心配しながら名を呼ばれていることに気付いたジェームズは自身が考え込んでいたことにようやく気付く。

恐らく思考の海に浸る間に沈黙を貫いていたのだろう。ピーターとリーマスから突き刺さる心配そうな顔を少し動揺しながらもジェームズは視線を揺り動かし、誤魔化す様に笑う。

「ごめん。ぼうっとして何も話を聞いてなかったや」

「大丈夫?寝ぼけているなら紅茶でも飲みなよ。ほらシリウス、僕の分も淹れて」

「今の流れだとお前が淹れるんだと俺は信じていたよリーマス……っ」

 打ちひしがれるシリウスだったが彼はすんなりと席を立ちティーセットを取りに行く。その姿をヘラヘラ笑って送り出すリーマスがいかに鋼の心を持っていることだろうか。

おろおろしつつも少し口元がにやけているピーターも似たようなものだがジェームズが浮かべる曖昧なものとは明らかに違うと思えた。

賑やかな談話室にカップを揺らし戻ってくるまで喋りながらシリウスを待っていようと話す会話を聞い流しているとジェームズへと足音荒く近付くひとつの影。


 その影はジェームズの横に立ち怒りに身を任せたままで目撃したピーターの短い悲鳴が一瞬で表舞台から消え去る。

見下ろしてくるその人物をジェームズが見上げると心の雪がじんわりと恋の灯火で溶けていくのがわかる。

ジェームズが浮かべた笑みは目の前の意中の相手へ注がれるが、当の本人は眉を吊り上げ腕組みをしてキンキンと突き刺さる声を向けてきた。

その言葉に恋情の笑みはすっと鳴りを潜めてしまうのは話題が話題だからだろう。


「ーーメリッサのことを止めないとあの子、死ぬわよ」



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