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□thirty-sixth.
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 セブルス・スネイプというスリザリン生は闇の魔法に傾倒している。そんな噂はゴーストのように飛び回っていたのだがレギュラスは決して嘘では無いと感じていた。

闇の時代を生きていたからこそ分かるのだが闇の陣営も不死鳥の騎士団も殺し合う時は主に闇の魔法を扱う。


 許されざる魔法は使って当たり前。どんな綺麗事を言っても武装解除魔法だけでは人は殺せない。特に味方を殺された騎士団側は恐ろしい顔をして、緑色の閃光を向けてきたものだ。

死線を越えてきたからこそ闇の魔法を重要さは誰よりも理解しているつもりだ。だがセブルスは……生きる為に深みにはまる訳でも、ヴォルデモートに憧れている訳でも無いように思える。

今までは大して気にも留めずにいたレギュラスだったが……少しずつ何かが変わる現状の中で彼だけが変わらないのはどうなのだろうと……傲慢にも思ってしまった。

だから、セブルスと二人で用事があり遅れるリリーを話し合いながら待っている時に、何気なく口から出てしまっていた。


「先輩ってリリー先輩のことが好きなんですよね?」


 ペトリフィカス・トタルスという石化呪文を浴びたように一瞬で固まり瞬きすらせずに、瞳孔まで開き驚くセブルスはあんぐりと口を開けレギュラスを見つめてきた。 

何故それを知っているとでも言いたいのか時折口がパクパクと動くのだが酸素を吸っては吐くだけ。酸素不足で喘ぐ金魚のようだとは口が裂けても言えない。

レギュラスは飄々とした態度でセブルスへと一方的な会話を繰り広げる。

「何故知っているかなんてわかり切ったこと聞かないで下さいね。僕もそういう対象がいるから分かるんですよ」

 さり気なくテーブルに敷かれた羊皮紙を端にどけて、肘を無作法にも乗せ頬杖をつく。親がいたら烈火の如く怒られるだろうが今のレギュラスが恐れる物などこの場には存在しなかった。

想うのはメリッサただ一人。それだけで口元が緩んでしまい紡がれる声すら甘くとろけていると錯覚してしまいそうだった。

「セブルス先輩も名前くらい覚えましたよね?メリッサ・ポッターは僕が世界で一番大好きな人です。彼女が笑えば僕も嬉しくて仕方ないし、彼女が辛い思いをしたら必ず慰めて影で相手を報復します」

「……」

「何人たりともメリッサを傷付けることは僕が許さない……たとえ距離が離れていても想いは変わりません。何があっても僕はメリッサが好きで、好きで、堪らない。何度死んでも変わりませんよ」

 散々惚気たレギュラスが彼女を彷彿させる淡い花が開花するような笑みを浮かべたが、現実問題少々距離を取っていることを思い出し寂しさを拭えない事に苦笑する。

同時に思うのはやはり彼女が好きだということ。きっと愛していると断言できるが、メリッサと両想いになった時まで取っておきたいと彼女と共に居る未来しか見えていない。


 しかし全ての人間がレギュラスと同じような苛烈な感情を抱く訳では無いことくらいレギュラスは知っている。

だが何かを守り抜く意思を持つ人間はこちら側になるのでは、とレギュラスは思うのだ。そして目の前で驚きからやっと解放されたセブルスも同類なのではとも直感として思える。

だからこそとてもいい笑顔を浮かべセブルスに聞く。きっと答えはほぼ同じなのだろうと予想しながらも、聞く以外の選択肢は残されていないのだ。

「先輩はリリー先輩をどれくらい好きなんですか。僕の想いを他人事では無いと思えますか?」

 凍り付いた状態から解放されたようにセブルスは気まずそうに顔を逸らしながらも口元を隠してもごもごと答える。頬に差す淡い色は照れが混じる声に溶け込んでいく。

「……リリーが、望むなら僕の全てを使ってでも叶えたいとは、思うが……す、すきだとは……別に」 

「好きではないのですか?では彼女の為に命を捧ぐような言葉を言うなんて許されませんよ」

 切り捨てるように言い放つレギュラスの笑みは取れないまま。強い声にセブルスが驚きを見せ羽ペンで書き殴る音で掻き消されそうな声で認めてしまう。

その言葉を聞き逃さないレギュラスは満足気に頷き頬杖を外し姿勢を正し柔らかい声で続けた。


「好きであるならば僕と似た想いを抱くセブルス先輩に問いたいのです。僕等は彼女達が求める物を叶えたいと言う……でも僕達って彼女達の本当に求める物を知っているのでしょうか?」

「急に何なんだ……」

「だって聞きもしないのにリリー先輩が望むものを分かるんですか?僕はメリッサに言われなければ分かりませんよ。先輩は分かるんですか?」


 するとセブルスは口元を隠す左手を忙しなく動かし黙りこくる。分かりやすい肯定の仕方にレギュラスは、この先輩はこんなに分かりやすい人だったろうかと前回との違いを感じる。

だがより近くになった関係を築いたのは今回が初めてともいえる。レギュラスが変わったように、レギュラスという台風の目に引き摺り込まれ周囲が変わっていっているのだろうか。

元々他人と距離を取るタイプであるレギュラスは前回までそれに気付こうとも思わなかっただろう。今回それに気付けたのは間違いなくレギュラスの前回との違いだった。

 
 純粋無垢とも取れる質問の裏で違う事を考えるレギュラスだったが、自分を引き戻す様に少々距離を置いているメリッサのことを考え思考を恋愛に傾かせる。

絶望や苦痛からかけ離れた夢のような暖かく穏やかな恋情。ひとつひとつの想いを拾い上げレギュラスは瞼の裏に眩しいメリッサの笑みを浮かべたまま、自分でも驚くほどに甘い声が出てしまう。


「もしメリッサが僕の望んでいる事は何かと聞いて来たら……好きな人が、あなたがただ傍にいてくれるだけでいいと伝えます」 
 
 セブルスの口元を隠す手から少々力が抜けてぽかりと開く口が見えてしまう。本当は一緒に死のボーダーラインを越えて二人で生きてみたいと言いたかったのだがレギュラスは妥協した。

それでも彼女だけを想って紡がれた想いは紛うことなくレギュラスの本心でもある。いずれは事情も明かさなくてはならないが今はまだ言えそうにない妥協は、苦笑へと繋がっていく。

「自分の行動でメリッサの笑顔が曇らないようにすること。それが、彼女の望みを叶えられる一番の近道だと僕は思うんです」

 呆けるセブルスをまっすぐ見つめたレギュラス。セブルスの覗き見える口元がレギュラスの言葉を小声で復唱するように呟く。

苦笑はゆっくりとセブルスが見かけたことの無いような、陽だまりで彼女と笑い合うのが良く似合う笑みへと変わり、まるで愛を囁くようにセブルスの分岐する未来の一方を指差す。

暗がりで光が一切無い淀んだ道とセブルスが恋をする少女の名の由来である花のように白く穢れの無い道。後者をそっと指差す言葉はセブルスを照らした。

「ねえセブルス先輩。近道を進み、その先で光の下で大切な人と笑い合う未来を選ぶ気はありませんか?」


 未だ呆然と取れる反応をするセブルスだったが彼の口元を覆う手から力が抜け落ち、ぶらりとテーブル下へと落ちていく左腕。

闇へと縛り付ける呪いから離れていくようにもレギュラスは見えてそっと笑みを濃くした。 



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