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□thirty-fifth.
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 研究仲間とお互いが称するように時間を見つけては集まり羊皮紙に多角的な面から見た意見を書き殴る。

小さな文字や雑な羅列。アバウトな図形や文字の上から二重線で消した後も残る羊皮紙は、空白のスペースを完全に無くしレギュラスは使用済みの羊皮紙を丸め留め、テーブルの脇へ放る。

そして新しい羊皮紙を出しては意見を交わしながら羽ペンで文字を躍らせる。


 その繰り返しの中でふと、セブルスは顎に手をあて考え込みながら言う言葉にリリーとレギュラスの視線が一身に降り注ぐ。

だが身じろがずに意見を吐くセブルスの視線は研究者らしく確固たる意見を持っていた。

「……これだけ探しても解決の糸口すら見つからない。これは、探す視点を変えるべきでは無いだろうか?」

「探す視点を変えると言ってもセブは何か案があるの?」

 リリーが羽ペンを置き問えばセブルスは一度だけ頷くと顎に添えていた手でテーブルに置かれた禁書を指差し、その後インクを付け直した羽ペンで羊皮紙に何かを書き込む。

説明しながら書き込まれる物をレギュラスとリリーは前のめり気味となり耳と目を貸して理解を深めようとする。


「まず禁書や高度な教科書、専門書に答えがあるという前提は変えるべきだ。こうやって集まる度に読む以上にレギュラスが読み込んでいても少しも解決の糸口が無いのはおかしい」

 挙げたワードを書きその上からバツ印をつけていく。セブルスが羽ペンの先にインクを付け直しながらも話は加速していく。

「そもそも本というのは誰かが見つけた答えを世に晒したもの。誰も見つけていないものを僕等が探しているとしたら求める答えは遠ざかるばかりじゃないか?」

 ガリガリと羊皮紙を削る音は普段の冷静さに研究への興奮を僅かに混ぜたセブルスの声に掻き消されていく。バツ印がスペースを埋めていくその中で漸く生存を許される物が生まれた。

「今までは生命活動に関与する異物を体外へ出す方向性で見ていたが、これを体内にどれだけあるかを調べることへ変えてみる」

「体外へ容易に出せる物では無いソレを目視で確認するということ?」

「ああ。僕等はレギュラスが言う説明でソレが命に関わっていることは理解出来ているが、その量も分布している先もまだ何も知らない。恐らく……レギュラスも知らないんじゃないか?」

 ちらりとセブルスの視線がレギュラスへと問う。やや興奮が混じる暗がりの瞳に促されるままレギュラスは頷く。

声のトーンを落としながらも以前考えた事はあった内容に困ったように眉を下げてレギュラスは息を吐いた。

「確かに知りません。ですが僕もその案は考えたことはあるんです。だけど幾ら探しても異物が反応するような呪文が見つからなくて結局諦めてしまいましたけど」

「……既存の呪文じゃ反応しないってことね。これは新しい呪文でも作らないと解決出来なそう……」

 リリーが悩まし気に頬に手を添えて溜息をつく。またセブルスが羊皮紙にバツ印のつかないワードを書き丸印で囲む。

着実に進展する議題だが次から次へと壁のように問題が立ち塞がる。レギュラスは過去の自分が辿り着けずに放置した案件を、自身がまた拾い上げる現状に苦笑するしか出来ない。

セブルスがまた何かを書いたと思えば羽ペンを置く。そしてただ一言を言い話は終わったとばかりにくるくると羊皮紙を丸め始める。


「ーー新しい呪文を作るぞ」


 思わずリリーとレギュラスが顔を見合わせお互いの呆けた顔を見た。俄然やる気になっているセブルスは積み重なった羊皮紙の山の脇にそっと置き、また新しい羊皮紙を出した。

羽ペンにインクをつけまた何かを書き込むセブルスは研究者魂に火でもつけてしまったのかもしれない。呆然とセブルスの様子を見ていただけのレギュラスだけに彼は釘を刺してきた。

その言葉にキュッと心臓が縮む思いを味わうが、そろそろ黙っているのも潮時かもしれないと視線を逸らし頬を掻く。


「……何をしてる。お前の知識を使い早々に理論を組み立てるんだ。骨組み作業を僕だけにやらせるつもりか」

「あ、いえ……」

「それと言い難い事だろうと僕等は理解してはいるが、異物のことをそろそろ説明する心の準備をしておけ。本当にこの研究をやり遂げるつもりがあるなら……勇気を振り絞れ」

「…………はい。ですがもう少し待ってください。もう少しだけ……」

「ふん」

 鼻を鳴らしたセブルスは本を取りに席を立ち本棚の波間へと潜り込む。そんな彼を見ていたリリーはクスクスと笑いレギュラスへそっと教えてくれた。

「セブってば本当にレギュラスのことを可愛がっているのね。あんなことセブが言うなんて本当に珍しいもの」

「そうなのですか?」

「そうよ。自分自身の研究意欲を刺激されたのもあるんでしょうけれど、あなたの研究を終わりを一緒に見たいと思うのも事実なのかもしれないわ。勿論私もね!」

 茶目っ気いっぱいと言えるウィンクを飛ばしてきたリリーは楽しそうに笑い赤毛を揺らした。

レギュラスが彼等を利用価値があると内心思っているというのにリリーとセブルスはただ純粋に仲間として、後輩を可愛がっている。その純粋さだけはどんなに年を経ても無くしてほしくない。


(もう僕には持てない感情なのかもしれません)

 曖昧な微笑を浮かべてレギュラスは席を立つ。リリーに本を探してくると断りを入れ、逃げる様に本棚の影へと滑り込んだ。




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