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□thirty-second.
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 残り僅かの夏休みさえ明けてしまいブラック兄弟は両親に暖かく送り出されながら、無事にホグワーツ特急へと乗り込み友人達との再会を遂げた。

久しぶりに会った飼い主に喜び飛び付く犬さながらのシリウスは勿論なのだが、胸にしこりを残したまま再会をするレギュラスとメリッサは何事も無かったように会えた喜びに頬を緩ませる。

案外レギュラスの思い込みが強い為に不安が倍増していただけなのかもしれない。不安感は時間と共に雲散し、代わりに歓喜が久しぶりに会ったと思えないくらいリズム良く二人の間を行き来する。

 
 相変わらずの光景にジェームズが呪い殺しそうな目でレギュラスを睨むことも皆には慣れた光景だ。

そしらぬ顔をして会話を続ける鋼のメンタルを持つレギュラスにピーターとリーマス、それにシリウスは顔を見合わせ苦笑する。一瞬の内に通り過ぎていく景色に楽しい時間は混じり去っていくのだ。 









 新入生は船で。二年生以上の生徒は馬車で。無事に進級を果たしたレギュラス達は初めて馬車に乗りホグワーツ城へと向かう。

他の二年生は「馬もいないのにどうやって学校まで行くの?」と疑問が浮かんでいる様子だが、他の上級生が次々に乗り込むのでそれに倣う子が多かった。

そんな中で悲鳴をあげる上級生もいて激しく動揺しているのを友人に抱えられ馬車へと乗り込む生徒も数名見受けられた。

理由を知らなければ発狂したと嘲笑う生徒のひとりになれたが、レギュラスが子供らしいことをする筈が無い。


 何度も見覚えのある骨張った馬の体躯は宝石のように真っ黒で、空を駆ける為の気高い翼はドラゴンの翼にも見える。目は生を見つめることを諦めたように真白で気味の悪さを感じさせる。

普通の人間には見えず特定の条件をクリアして初めて目視できる生き物の名前はセストラル。先程悲鳴をあげた生徒はセストラルを初めて見たのだろう。

レギュラスもセストラルを初めて見た時心底驚き寒気が全身を襲ったものだ。流石に自立歩行は可能な驚き具合だったが、後日記憶所持していたメリッサに聞けば完全に同意してくれた。

レギュラスがそんな懐かしさを感じながらも、セストラルの知識を持っていたらしいシリウスが知らなかったらしいピーターの質問に肩を竦めながら答える。


「セストラルっていう魔法生物が馬車を率いているんだってさ。そいつを見れるのは死を見たことがある人間だけが姿を見えるらしいぜ……あんな悲鳴が上がる位だ。見えない方が良いんだろうよ」

「シリウスも見えないの?ジェームズやリーマスは見える?」

「僕は見えないよ。でも何だか魔法生物がいるなあって気配とか匂いはしてるような……してないような。気のせいかもね」


 リーマスは早口で答えると我先にと乗り込んだ。次にシリウス。残っていたジェームズは何故か馬車では無く自分の妹を見つめ続けており、ピーターの質問は聞いていなかったようだ。

ピーターが再度ジェームズに問いかけると彼は慌ててピーターの方を向きメリッサに何度か視線を送りながらも答える。


「え?ああ、あー……僕は、見えないよ。親戚の葬式には行った事あるけれど僕等はまだ幼くて……死を理解出来てなかったみたい。だから、僕は見えないよ」

「ねえどうしてさっきからメリッサの方を気にしているの?ジェームズらしくないじゃないか。二人が隣同士で並んでいるのが気になって仕方ないのは分かるけど……」

「……今回のはそういうんじゃないんだけれど……レギュラス。メリッサのこと頼んでいい?」


 急に話しかけられたレギュラスは過去を思い出すのを止め現実に戻ってくる。そして訳も分からず了解の意を返すとジェームズは不安そうに乗り込み、ピーターもばたばたと忙しなく乗り込んだ。

頭の遠い所で微かに聞いていたとは言えジェームズの頼み事を聞いてしまった以上適当なことは出来ないとレギュラスは内心青褪めていた。

だが着込んだローブの左腕が弱く引っ張られる感覚に意識が移る。

そして視界に収めてレギュラスの青褪めていく心が凍り付いて行く。自分が過去に浸っている間に予想外のことが起こっていた。その事実に喜びよりも申し訳無さが先立っていく。


 レギュラスのローブの裾を引くメリッサは血の気が引いた強張った表情のまま、彼女の見開かれるハシバミ色の瞳にはセストラルが映っていた。




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